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宮刑会

 円卓の朱色には吸い込まれそうな美しさがあった。
 私を含め七人が席に着いている。
 中央には龍を象った橙色の置物がある。工藤さんいわく人参で出来ているそうだ。その周りにフカヒレ、北京タッグ、アワビなどの高級食材が並べられている。二十数年生きていて食べたことも見たこともない料理が卓を埋め尽くすように置かれている。明らかに人数よりも多すぎる量なのだが、半分以上が綺麗に平らげられていた。
 そのほどんとはこの宴の主催者である王さんの胃袋に収まっている。光沢のある坊主頭、目は細く、肉のついたアゴと腹周り。五十歳を越えているらしいが、異様なまでに艶のある肌をしていた。
 私の位置を六時とするならば、王さんは十二時、つまり正面に座っている。彼の横には二人の美女が座っている。どちらもアジア系の顔立ちで長い黒髪に白いドレスを着ていた。そして非人間的なまでに整ったプロポーションをしていた。
 三時の辺り、右側には大河という三十代の男性が座っていた。派手な金髪だが、高級そうなスーツを見事に着こなしている。目つきが鋭く、堅気の人間ではない雰囲気があった。そして、彼の隣にはウェーブの掛かった茶色の長い髪に肩を露出し身体の線を強調する黒いチューブトップを着て、下はデニムのホットパンツで足を大胆に露出した男がいた。
 名前をアケミというらしい。どこからどうみても男だった。それも四十は越えている中年だ。しかし、腕や足には体毛の類は一切なかった。顔の化粧もケバいが、しっかりと仕上げられている。太い身体を器用と思えるほどにクネクネと動かしながら、料理を口に運んでいた。
 九時の辺り、左側には工藤さんが座っている。豪華な料理に臆することなく、食事や他の人たちとの会話を楽しんでいる。時々、私においしい食べ方やマナーを耳打ちしてくれる。工藤さんは何歳なのだろうか。それなりに年は重ねているが、逞しい身体をしているし、夜なんて三、四回は平気で出してくれる。おまけに体力だけじゃなくて、テクニックも一流。すべてが終わったころの私はもう完全に放心状態になって朝を迎えることになる。
「さやかさん、料理は美味しいですか?」
 笑顔の王さんは七福神の恵比寿さんのようだ。
「ええ、とっても美味しいです」
 私と王さんはかなり距離があるので少し大きな声を出さないといけない。
「最近、工藤さんがこられないので寂しかったんですよ。久しぶりに来たと思ったらこんな若くて可愛い子を連れてくるなんて。なかなか隅におけませんな」
「はは、王さんには叶いませんよ」
 私と工藤さんが知り合ったのは三ヶ月前だ。とある女装系のイベントで声を掛けられたのがキッカケ。そのときの私はファッションとして女の子の格好を楽しむノンケだった。自分で言うのもなんだか小柄だし、そこそこ似合っていると思う。イベントでは純男、いわゆるチェイサーによく声を掛けらて、正直どの人も鬱陶しいだけだった。ところが、工藤さんは清潔感があって、会話も知的で面白かった。ついつい引き込まれてしまい、言葉巧みにって感じで最後まで持って行かれた。彼女もいたことあるし、男同士なんてと思っていたけど、工藤さんにはそんな壁を軽々と越えてしまえる魅力があった。
 今日は工藤さんに連れてこられた。王さんが経営する高級中国料理店の個室である。聞くところによると王さんは飲食店を世界中に何十店舗と経営しており、他にも都内に土地やビルを山のように持っているそうだ。
 この集まりは王さんが主催する会合とだけ聞かされていた。
「じゃあ、俺から話しましょうか」
 皿が下げられ、食後酒が運ばれてきた。そこで声を挙げたのは大河さんだった。
「ええ、お願いしますよ。ではみなさん、久しぶりの宮刑会の始まりです。乾杯!」
 王さんはグラスを高く上げた。薔薇のような赤ワインが妖しく揺れ動いた。

「こいつの本名は佐藤剛士。45歳で◯◯建設の課長」
 ◯◯建設といえば有名な大手ゼネコンだ。就職活動のときも周りの友達が何人も受けていた。佐藤剛士もといアケミはうっとりした様子で大河さんの話を聞いている。
「結婚もして、嫁と娘が一人。二人ともなかなかの美人でね。娘は父親に似てなくてよかったよ」
 アケミは「もう」といった風に頬を膨らませている。
「さて、ここからが本題。大企業で働いて家庭のある男がなぜオカマに堕ちたかというと」
 大河さんは間を置いて、ワインを一口含んだ。
「俺、キャバクラをいくつか経営してるんだけど、元々こいつはうちの常連だったんだ。とあるキャバ嬢にぞっこんでね。毎日のように通いつめてたよ。普段は小心者だけど酔うと気が大きくなるらしくて、その子をアフターに誘って、無理やりヤッちゃったんだよね。まぁ、そうなると裏の出番で、傷物にされたって脅しを掛けなきゃいけなくなるんだよ」
 大河さんはワインのお代わりを注文した。すでにかなり飲んでいるが顔は何も変わらず、口もしっかりと動いている。
「ここからは俺の話なんだけど、皆さん知っての通りに俺はバイで女装子が好きなんだ。あっ、でもさやかちゃんみたいな若い子じゃなくて、アケミみたいなオッサンね」
「もうオッサンいわないでぇん」
「こういう男丸出しの奴にギャルっぽい格好をさせるのがスゲー興奮するんだ。だから、俺は最初から目を付けてたっていうか、ずっと口実を探してたんだよね。そしたら上手いことはまり込んでくれて。まずは徹底的に暴力。それが仕事でもあるから、手加減なしでやり込むんだ。んで、ケツを掘る。そのときはまだ男のままで、毛とか凄かったけど、何度もヤルうちにトコロテンしやがってさ。もともと素質があったんだよ」
「いやん」
「あっ、ちなみにアケミって名前がこいつが入れ込んでたキャバ嬢から取ったんだよ。なかなかいいだろ。まぁ、あとは自分で化粧や女装できるようにして、全身脱毛をさせた。当たり前だけど全部こいつの金。そのときはまだ脅しながらやってたけど、半分くらいは楽しんでやってたよな」
「うん、そうだよー。なんかそれまではちょーツマラナイ毎日だったのに、大河ちゃんと出会ってから急に人生楽しくなってきたんだ」
 アケミの声は男のままだが、抑揚や言葉の使い方は頭が空っぽなギャルそのものだった。
「こういう真面目に生きてる小市民ほど溜め込んでるから、一回開放すればあとはすごい勢いで転がっていくもんさ。となると、こいつの嫁と娘がおかしいってなるわけ。女だから余計に感づきやすい。まぁ、面倒くさいことになるのはごめんだからやっちゃってね」
 私は息を飲んだ。
「まさか、殺しを」
 聞きたかったことを王さんが尋ねてくれた。
「いやまさか。旦那を仕込んだように、嫁と娘も雌に仕込ませてもらいましたよ。まぁ、俺の力だけじゃ無理なんで、その道の専門家に頼んでね。嫁は清楚な感じを気取ってたけど、相当に飢えてたみたいで、もうコロっと堕ちました。ずいぶんとセックスレスだったそうです。娘のほうは初心でね。大学生で何かスポーツをやってたよな?」
「マナは陸上をやってたよ」
 娘はマナというらしい。
「そのさわやかな健康美少女が最初は嫌がるわけ。おまけに処女だったからなかなか時間が掛かったよ。今まで一生懸命に作り上げてきた引き締まった身体が男たちに汚されて、だんだんと感じるようになっていって、否定しても否定しても追っつかなくなって、最後は堕ちる。まぁ、女なんてそんなもんですよ。でも、アケミよりも堪えてたから、父親よりも男らしいのかもしれないな」
 大河さんは自分の冗談に一人で笑っていた。
「家族全員乱交ショーとかやりましたよ。撮影して裏物として販売してますから、あとで皆さんに差し上げますね。まぁ、アケミが一番感じてて、嫁と娘が引いてましたもん」
「アケミさんはいまも◯◯建設に?」
 工藤さんが聞いた。
「いや、もう辞めさせました。仕事場にギャルの格好で行かせて、退職届とハメ撮り写真を上司に渡させました。私は男を辞めてギャルとして生きていきますって同僚や部下の前で言わせました。もう会社中がパニックになったみたいで。けど、アケミはスゲー興奮して、我慢汁ってグショグショになってるんですよ。あれはおかしかったな。あっ、そうそう、いまは俺が持っているニューハーフパブで働かせてます。嫁は熟女キャバクラ、娘は風俗っすね。こいつの稼ぎは全然だけど、あとの二人は才能があったみたいでかなり儲けてますね。まぁ、俺の話はこんなところでおしまいです。何か質問があったらどうぞ」
 王さんは拍手をした。嬉しくてたまらないといった表情をしている。
「素晴らしいお話でした。アケミさんはホルモンはしてるのですか?」
「いやさせてません。まぁ、この年でしてもあんまり変わるわけでもないし、それに俺の趣味に合わなくなるんですよ。このゴツいおっさんがビッチギャルみたいに振る舞うのが良いんですよね」
「すると改造は脱毛だけ?」
「そうっすね。こいつは二重にしたいとか、唇を厚くしたいとか言ってますけど、元の男丸出しのままにさせてます」
 私はただ圧倒されていた。現実感のない話だが、目の前にいるアケミのちぐはぐな格好が何よりの証拠だった。それに彼が大河という男に心底惚れ込んでいるのが痛いほど分かる。
 アケミの風貌には滑稽を通り越して痛みすら漂っている。しかし、当人はいたってこれが普通といった様子だし、何よりもしっかりとギャルになっていた。外見だけではない。喋り方や仕草、内面のすべてから男性性がなくなっている。
 まっとうに男として生きてきて、大切な家族がいるのに、ここまで人は変われるものなのだろうか。それとも女装にはそれほどの魔力が秘められているのだろうか。


「それでは次は私の番ですな。あっ、デザートを忘れてました。持ってこさせます」
 王さんは手元で何かを操作するような仕草を見せた。
「ご存知の通り、私の国は上り調子で、事業のほうもその恩恵に預かりどんどんと成長しております」
「いまのインバウンドは本当に凄いですよ」
 工藤さんが頷きながら言った。そういえばこの宮刑会では工藤さんも喋るんだろうか。
「王さんの国の人たちは俺にとっても良いお客さんです」
「大河さんとは良いお付き合いをさせてもらってます。ありがたいことです。我が家の家訓に商売において人の縁ほど大事なものはないというのがあります。そして、食と性の欲望は尽きることがない。だから儲かるとも。私はこの教えに従って事業を起こしました。まずは食です。世界中の美味しいモノを食べました。好き嫌いがないので何でも食べれます。おかげでこんなに立派な腹になってしまいましたが」
 王さんは妊婦のように膨らんだお腹をポンポンと叩いた。一同は笑ったが、王さんの両隣の女性の様子が少しおかしかった。
「私が見込んだ腕利きの料理人を集めて、様々なジャンルのレストランを開業しました。日本に関してはバブル崩壊のときに地価がグンと下がりましたから、そのときに一気に買い占めましたよ。あんなのは永遠には続かない、いつか絶対に値下がりすると踏んでましたからね。おかげでずいぶんと儲けさせていただきました。あと三代は遊んでも暮らせるだけの資産があります」
 私が生まれたときから日本は不景気だった。この国が好景気に湧いていただなんて想像もできない。格差がどんどん広がると言われているが、王さんのような人が富を独占するのだろうか。
「五十を越えたときに飲食に関する事業は後継者に任せました。そして、次は性と決めました。しかし、食とは違い性には好き嫌いがあるのです。それも私はずいぶんと偏食家でしてね」
 ウェイターがデザートを運んできた。私の前に置かれたのはバニラアイスの玉が二つ。ピンク色のソースと金箔が散りばめられている。他の人はフルーツが盛り合わせられた杏仁豆腐だった。
「お美しいさやかさんは特別メニューです。ヨーロッパの各地から材料を取り寄せて作りました。最高の一品です」
 王さんは満面の笑みで説明してくれた。
「えぇー、ずるいーわたしもほしいぃー」
「うるさい。黙ってろ!」
 駄々っ子のようなアケミは大河さんに叱られると拗ねたように下を向いた。
「ありがとうございます。いただきますね」
 私は優越感を感じながら、アイスを口に入れた。
 すぐに溶けるがその濃厚な甘みがいつまでも舌の上に残る。鼻から抜けていくバニラの香りが頭が溶けていき、もう死んでもいいと思えるくらいの幸福感に包まれた。
「はは、美味しいでしょう」
「……ええ、とっても。こんなの食べたことないです」
「さて、他のみなさんどうぞ食べてください。おい」
 王さんが左右の美女を立たせた。そのとき彼女らの前にデザートがないことに気づいた。
 二人はドレスのスカートを捲った。そこには親指ほどの陰茎があった。彼女らは男だったのだ。信じられなかった。顔も身体も女性そのものだったのに。
 それにしても、こんなに男性器が小さくなるのかと我が目を疑ってしまう。生まれたての赤ん坊のような大きさだった。
 顔を赤らめている。皆の前で露出しているのが恥ずかしいのかと思ったが様子が変だ。もじもじと腰を動かしながら、王さんのデザートに近づく。立ち小便をするように指で陰茎を摘み、狙いを定めるように動かす。
 王さんは手元で何かを動かした。微かに振動音のようなものが聴こえてくる。
 すると美女二人の先端から薄い灰色の液体がボタボタと溢れだした。カウパー液にしては色があり、精液にしては粘り気がなかった。
 王さんはその不思議な液体を杏仁豆腐に絡める、一口食べた。
「んー、まさしく美味。これは特別メニューなので皆さんにお出しすることはできないのが申し訳ない」
「いやソースなしでも充分においしいですよ」
 工藤さんは何事もないように喋っているが、私はパニックだった。あの二人が男で、そこから出た液体を王さんが食べる。理解を越えた出来事が次から次へと起こり、さきほどのアイスの美味しさがどこかへ消えてしまった。
「この子たちの尻に特別性のローターを仕込んであります。このスイッチで強弱がつけられます。こんな風に」
 王さんが手元にある小さな機械を動かすと、二人は身体を震わせ立っていられないという風に椅子に捕まった。
「食事中から少しずつ電流と振動を流していて、デザートがくるタイミングで発射できるように調節していたわけです」
 また機械を触ると、二人は幾分落ち着いた様子を見せた。しかし、まだ顔は赤いままだ。
「私の国では昔から肝臓が悪ければ肝臓を食べる、目が悪くなれば目を食べるという教えがあります。この子らには特殊なホルモンを打ってまして、女性化はしてますが、しっかりとした精子が入った精液を出せるようになっているのです。それを食べるということは種を食べる、すなわち生命力そのものを頂いているわけです。おかげで私はいつまでも若くいれる。お前らはもういいぞ」
 二人はフラフラとした足取りで部屋から出ていった。彼女たちはデザートのソースとしてずっと座っていたのか。
 私は王さんに得体の知れない不気味さを覚えた。人の良さそうな顔をしているが、欲望のためなら躊躇もせずに何でもするに違いない。
「私は普通の女には興味がないのです。好きなのは男、それも女のような男。この宮刑会を立ち上げたのも特殊な性癖を理解してくれる仲間が欲しかったのです」
 王さんはあっという間に杏仁豆腐を平らげた。
「性に関する事業を立ち上げる。しかし、普通の風俗ではつまらない。食と同様に私が良いと思ったものをお客様に提供したいのです。そこでニューハーフ風俗を作りました。さっきの子らはそこの従業員です」
「彼女らはどこの国出身ですか?」
 工藤さんも杏仁豆腐を完食していた。私は呆気に取られていてまだアイスが半分以上残っていた。高級なものだから溶けるのも遅いようだ。
「日本です。私のニューハーフ風俗は欧米の富裕層を顧客としています。そこではアジア系が人気。日本人が一番従順で向いています。私の国の人間などは気が強すぎてとても使い物にはなりません」
 王さんは豪快に笑った。
「セックスはもちろん、あらゆる変態プレイを出来るように調教しますし、また自分色に染められるようにあえて真っさらな状態で渡すオプションもあります。性だけではなく家事全般も研修を行いますから、メイドとしても使えます。そうしたら老いてもハウスキーパーとして生きていけますからな」
 突拍子もない話ながら、一本の筋は通っていた。王さんの力強い熱弁、二人の美女。おそらく私と年は変わらないはずだ。一体何がどうなってあんな姿になったのだろうか。


「人はどうやって集めてくるんですか?普通の風俗ならまだしもニューハーフってなるとどこも人手不足だって聞きますけど」
 大河さんが王さんに聞いた。
「そこなんです。牛や豚は家畜ですから何とでもなります、ところが人間となると扱いが厄介だ。だから、立ち上げたときは半分は道楽のつもりだったのです。限られたルートで人を集めて、小さくやっていこうと。ところがどこで聞きつけたのかたくさんの日本の若い男が応募してきたのです」
「えっ、志願者がいるんですか」
 私は驚きのあまりに声を出してしまった。
「ビックリでしょう。草食男子などという言葉が流行りましたが、実態はもっと進んでいるみたいですな」
 私もニューハーフに憧れることはある。綺麗になれたら楽しいだろうなと思う。でも、それは若いうちだけだ。年老いたら男とも女ともいえない生き物になってしまう。ましてやアケミのように普通の人生を捨てて、みっともない格好を晒すなんてとんでもない。女装はあくまで遊びなのだ。
「厳しく審査しても、かなり人数を取ることが出来ました。おかげでこの商売も軌道に乗りましたし、私もずいぶんと楽しんでます。大河さん、工藤さん。どうですか?あとでいい子を紹介しますよ」
「いえ、若い子は守備範囲外なんで」
「私もさやかがいますから」
 さやかがいますからだなんて、私は照れながらも嬉しかった。
 にしても、大河さんと王さんとくれば、次は工藤さんの番だ。けど話を持っているのだろうか。私と工藤さんとは普通の、といっても男と女装子の肉体関係しかない。そんなのはこれまでの話に比べたら何のインパクトもないはずだ。
「では、最後は僕ですね」
 工藤さんが立ち上がった。そして私の席の後ろに立った。
「彼女とは三ヶ月前にとあるイベントで知り合いました。見ての通りなかなかの逸材です」
 その声はいつも違って、どこか冷たさがあった。
「もともとはノンケの男だったんですが、私が女にしてやりました」
「さすが工藤さんだ」
「ありがとうございます。もうずいぶんと楽しんだので、次の段階に移るべく、この宮刑会に連れてきました」
 言葉がどんどんと遠くなっていく気がした。何を言っているか理解できない。これは自分が知っている優しい工藤さんではない。まるで別人のようだ。
 恐怖。頭の奥で誰かが逃げろと叫んでいる。たまらずに立ち上がろうとした瞬間に、その場に座り込んでしまった。
「あ、な、なん、で」
 どれだけ力を入れても、次の瞬間には抜けていく。酔っているわけではない。意識はハッキリしている。ただ、頭と身体が切り離されたようで、自由に動かすことが出来なくなっていた。
「アイスは美味しかったろ?」
 工藤さんが耳元で囁いた。あのアイスに何か薬が盛られていたのか。一体どうして。なんでそんなことをするの。
 身体を担がれて円卓の上に寝かされた。皆が興味深そうに私を覗き込んでくる。
 スカートとパンツを脱がされ、下半身が露わになった。隠そうとしても腕どころか指一本も動かすことが出来ない。
「私は口下手ですので、皆さんに次の段階へ進む儀式をお見せします」
 工藤さんは私の睾丸を掴むと、タコ糸のようなもので根元を縛り始めた。腹の底に鈍痛が響く。身体の自由は効かないが、痛みだけはしっかりとあった。
 冷たい刃の感触が走る。ナイフだろうか。絶望的な気持ちになった。後悔が津波のように押し寄せて、すべてを飲み込んでいった。これから自分に起こることを信じたくなかった。でも、いまの状況、そしてこれまで聞いてきた話からいっても、これは現実でしかなかった。
「さやかのサイズはなかなかのものでしょう」
 涙でぼやける視界の中で工藤さんの声が聴こえてきた。この人は悪魔に違いない。
「おお、立派な大きさをしてるな」
「ホントーだー、女の子の欲しがりそうな良い形してるわー」
 大河さんは私の竿をつまみ上げた。
 工藤さんがナイフの柄の部分で睾丸の下辺りをグリグリと押し込んできた。そこは彼によって開発された前立腺の場所であり、刺激されると快楽の記憶が一気に開かれてしまう。身体は男としての最大の恐怖を味わう一方で、女としての悦びの匂いを感じ取っていた。
「玉を取ると竿は縮むから、この大きさともお別れだよ」
「や、やめ、て」
 唇すら痺れてしまって、身体の中で自由になる部分はなくなってしまった。
「さやかの玉は王さんが食べるからね。この豪華な料理を出してくださったお礼だ」
「新鮮な睾丸を食べるのは久しぶりだ」
 王さんの弾んだ声が聞こえる。
「安心してくれ。医者を呼んであるから死ぬことはないよ」
 風船が破裂したような音が聞こえたと思ったときには、鋭い痛みが全身を貫いていた。一秒が永遠に思えるほど気が遠くなる。逃れることができない。もはや玉がなくなってもいいから早く終わらせてくれと願うばかりだった。
 ブチブチと何かが切れる音がして、股の感覚と痛みの質が変わった。もうなくなってしまったの……
「ほほー、これは上手い。実に上手い!!世界で一番おいしい!!」
 王さんの雄叫びが聞こえた。この位置からでは見えないが、私の男の証は食べられてしまった。
「今日から本当に僕とさやかの関係が始まるんだ。この宮刑会で話せる思い出をたくさん作ろうね」
 工藤さんは血で染まった赤い手で私の頬をやさしく撫でた。


END
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