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出る杭は犯される

 梶浦朝樹が檜の椅子にでんと腰を下ろした。
 芳しい檜の香りが漂っている。梶浦が特別注文で作った風呂場である。壁、浴槽、椅子、桶にいたるまですべて檜で造られており、自宅でありながら温泉旅館を思わせるほどに広々としている。
 マミはシャワーの湯加減を確認していた。少し熱いくらいが梶浦の好みであった。
 パンチパーマから肉の張った太い首が伸びて逞しい肩が広がる。五十過ぎの肌とは思えないほどに湯を弾いていた。
 ボディーソープを泡立たて身体に塗りたくる。少女のような胸の膨らみが硬い背中の上を滑っていく。
 梶浦は気持ちよさそうに歌を口ずさむ。マミが生まれるずっと前に流行った歌であった。
 風俗嬢のように自らの身体で男の肉体を洗う。ただプロは一々感じては商売にならない。素人であるマミは肌が触れ合う感触に僅かながらに感じてしまっていた。
 マミは梶浦の腕を跨ぎ、腰を前後に振り始めた。股間には少年のような性器が生えており、ブラシの役割を果たしていた。
 両腕を洗い終えると、正面で抱き合うように身体を密着させる。梶浦の丸々と太った腹の下で二つの竿が触れ合う。マミは泡を継ぎ足し、腰を上下に動かした。
 白い雲のような泡の中で二本が絡み合う。男性としての機能を失って久しいマミの竿ではあるが、神経だけは充分すぎるほどに通っていた。
 シャワーですべて洗い流し、まず梶浦が湯に浸かる。そしてそこに収まるような形でマミが入る。
 大人二人がゆったりと入れるほどの広い浴槽であるが、二人は身体を密着させている。
「あぁ、いい湯だ」
 動物の唸り声のような息を吐き出し、梶浦はマミの肩に顎を乗せて囁く。
「髪、伸びたな」
 太い指が濡れた黒髪を撫で回す。
「また美容師が必要ならいつでも言えよ」
「はい」
 背中越しに梶浦の肉体が伝わってくる。それだけでなく風呂場全体に雄の匂いが充満しているようだ。
「胸は中々大きくならないな」
 思わず奥歯を噛み締めた。膨らみ始めの胸を揉まれると痛い。
 梶浦はすぐさま乳首の辺り撫で出す。湯の中で触れるか触れないかくらいの加減で指が動いている。
 お湯の火照りも手伝って、マミの熱は高みへとどんどん登っていく。
 梶浦はまた歌いだした。古い歌謡曲が風呂場に響く。
 手はゆっくりと下へ降りていく。
「こちらは一段と小さくなった」
 マミの雌竿が二本指に挟まれる。指が上下に動くと、雌竿は左右に力なく垂れる。思わず内股になってしまうが、梶浦の手で開脚させられる。
 指が離れた。次くるところは分かっている。
「出るぞ」
 梶浦は短く言って風呂場から出た。意外な展開にマミは面を喰らいながらも、疼きを抱えたまま慌ててその後ろを付いていった。
 バスローブを着た梶浦はリビングのソファに腰を落ち着けた。マミはピンク色のバスローブを羽織り、冷蔵庫から瓶ビールを取り出す。
「おつまみを用意しましょうか」
 本当はさっきの続きをしてほしい。
 しかし、こちらから言い出すことは恥ずかしかった。もうこれ以上何を恥ずかしがるのかと思いながらも、心のどこかでいじらしく振る舞う自分がいる。
「お前も飲め。つまみは俺が用意した」
 梶浦はテレビを点けた。地上波ではなくHDに録画された番組を見るようだ。
「A市インフォのお時間です。今週、いまA市で最も有名なゲストをお迎えしております」
 テレビに映る女性アナウンサー。マミは顔が強張る。
 梶浦の手が肩に回され、ぐっと引き寄せられた。
「今日は市議会議員の新山拓実さんにお越しいただきました」
 新山拓実。それは半年前のマミの姿であった。



「新山議員はA市出身の現在二十七歳。先月、A市議会選挙で初当選されました」
 生放送のためスタジオにはスタッフたちの静かな緊張感が漂っている。
「立候補される前は東京のB商事に勤務されていました。業界最大手の大企業です。なぜそのような恵まれた場所から市議になろうと思ったのですか?」
「昨年相次いて両親を亡くしました。久しぶりに帰ってきた故郷がずいぶんと寂しくなっていたので、何か貢献したいと思ったんです」
「ご両親は天国でお喜びになっていると思います」
「二人は学校の教師をやっていました。常々人のために生きなさいと言われてましたね」
「新山さんはA市だけでなく全国的に注目を集めました」
 小柄で甘いマスクの拓実はSNSで「アイドルすぎる議員」として話題となり、それに注目したマスコミが全国的に取り上げた。いま地方議員ではありえないほどの注目を浴びている。
「最近はメディアも落ち着きましたけどね。これからは議員としての仕事でアピールしていきたいです」
「市の財政について厳しく追求されていますよね」
「いま地方財政はどんどん厳しくなっています。昔のやり方を続けていては事態は悪くなる一方です」
「では、そろそろお時間のようです。また来週お会いしましょう」
「いやー、新山さん!今日はありがとうございます!」
 プロデューサーが一際大きな声で挨拶をしてくる。
「こちらこそ貴重な場をいただき感謝しています」
「何言ってるんですか!新山さんみたいな有名人はもっとテレビに出てほしいんですよ。どうです?このあと飲みながら話しません?」
「ありがたいですが、明日も早いので失礼します。今日はお疲れ様でした」
 テレビ局を出て、駐車場に停めた車に乗り込む。若い市議会議員には運転手を雇う余裕はなかった。
 白いコンパクトカーはA市の移住と共に購入した。東京は交通網が発達しているのでマイカーなど必要なかったが、地方では車がないと生活ができない。
 大通りを走っていると寂しくなった町並みが目に入ってくる。近隣にあった大企業の工場が軒並み撤退したため、商業施設や飲食店が次々に廃業しているのだ。 
 十八歳のときに大学入学を機に上京をした。あのときは田舎臭くて面白みのない場所だと思っていた。東京は人がたくさんいて刺激的だったが、どこか寂しさがあった。再び帰ってきたとき、地元の温かさに気づいた。
 しばらく車を走らせていると、派手なネオンの看板を掲げたパチンコ屋が目立つようになってきた。その奥にはカラフルで特徴的な建物が続いている。風俗街であった。ここだけは不景気の影響を受けずに盛況のようである。
 ハンドルを握る力が強くなる。女性が身体を売る現実があるのは理解している。ただどうしても生理的な嫌悪感が先に出てしまう。もっと分からないのは買う男のほうだ。愛のない性行為をして何が楽しいのだろうか。厳格な両親の元で育った拓実は性を悪いこととして躾けられていた。
 景色から逃げるようにアクセルを踏み込んだ。
 昨年購入した新築の一軒家。取り立てて特徴はないが、地方なだけあって土地や部屋は広い。東京でこれだけの家を買おうと思ったら五倍の値段はするだろう。
「旦那さん!見たわよ!!」
 隣に住む吉江が小走りでやってくる。五十過ぎの話し好きのおばさんである。
「実物もカッコいいけど、テレビで見るのもいいわよね」
 疲れているので早く家に入りたいのだが近所付き合いの手前無下にはできなかった。
「ところで奥さんはお元気かしら?またいつでも遊びに来ていいんだからね」
「はぁ、ありがとうございます」
「子どもがいたら地域に馴染めると思うのよ。ほらこの辺りは子供会のイベントやお祭りが多いでしょう」
「そうですね」
「奥さんって旦那さんと同い年よね。まだ若いから安心なんてことないのよ!」
 一方的に捲し立てる吉江から解放されたのは二十分後であった。
「おかえり」「ただいま」
 エプロン姿の若妻が出迎える。くりくりとした瞳が愛らしい。
 新山早苗。彼女も拓実同様に整った顔立ちをしているが、引っ込み思案なところがあるのでマスコミなどの取材をあまり受けたがらない。
「また吉江さんに捕まったの?時々勝手に敷地の中に入ってくるのよ」
「東京とは違うんだ。この辺りの人は仕方ないよ」
 早苗は東京生まれ東京育ちであり、地方の環境に馴染めていなかった。
「それにあの人なりに早苗のことを心配しているんだよ」
「そうかしらね。あっ、お風呂沸いてるよ」
 浴槽に身を沈めても、頭を駆け巡るのは仕事のことであった。
 暴こうとしているのは行政と地元企業の癒着だ。とはいえ道のりは遠い。決定的な証拠は集められてないし、他の議員の協力も必要になる。
 風呂から上がり、早苗と一緒に夕食を取る。
「ねえ、来週って休み取れそう?」
「うーん、ちょっと厳しいかもな。何かあったか?」
 テーブルの下で拓実の足を突く早苗。
「痛い。何なんだよ」
「別に。それにしてもちょっと働きすぎじゃない?」
「仕方ないよ。一人でやってるんだから」
「秘書でも雇えばいいじゃない」
「そんな余裕ないよ。その話は前にもしたろう。いまが一番の頑張り時なんだよ」
 国会議員ならともかく地方都市の市レベルでは人を雇うことすら難しいのである。ましてや拓実は東京の仕事を辞めて議員になった。懐事情はかなり厳しい。
「そっか。そうだよね」
 険悪な雰囲気になりそうなのを察知して、早苗は無理やりに納得したように見せた。
 拓実も早苗には苦労を掛けているという自覚はあった。議員の奥さんということで仕事も探しづらい。おまけにA市に友達もいない。見知らぬ土地で頼れるのは拓実だけであった。



 A市合同庁舎の会議室。企業誘致に関する懇談会の準備が進められていた。
 議員たちの話題は拓実のテレビ出演であった。
「新山くんのおかげでA市も有名になったよ」
「うんうん。またテレビに出ると良い」
 ほとんどの議員が親子ほど年が離れている。大半は地元企業の社長や代々議員をやってきた家系の人間である。拓実のようなUターンで議員になるタイプはいなかった。
「はぁ、機会があればとは思ってますが……」
 そこに市議会議長の但馬が割って入ってきた。
「メディア出演も結構ですが、今日の準備は大丈夫ですか?あなたは少し感情的になるところがあるので、注意してくださいよ」
 彼は議員たちの取り纏め役であり、日頃から何かと口うるさい人間であった。
 懇談会がスタートした。議員、市職員、専門家、地元企業の人間がそれぞれの立場から意見を述べる。
「いくつかの企業から工場進出の話を頂いている。もっと行政の後押しがほしいですな」
 A市でいくつもの会社を経営している梶浦朝樹。その野太い声が会議室に響き渡る。
 この強面の男はA市において絶大な権力を持っており、A市の風俗街にある建物や土地はすべて彼の不動産であった。
「お言葉ですが、いまは福祉に力を回すべきです」
 拓実の上げた声に、会議室の空気が張り詰める。A市で梶浦に逆らうことなどありえなかった。
「子育てや老人介護を充実させ住みよい街を作れば、自然と人は集まります。実際に他府県で成功事例がいくつも報告されてます」
「だが結局は金がいるだろう。ワシだって福祉が大事なのはわかる。順番だ。順番」
「企業優先なら一部の人間が良い思いをするだけじゃないか!」
 拓実はたまらず大声を出した。梶浦のような古い人間が力を握っているから、A市は衰退していくのだ。
「新山さん、少し抑えてください。行政の立場からはどうですか?」
 但馬が話を市長の木戸新一に向けた。
「我々も福祉の重要性は認識しておりますが、懐事情は厳しいですからね。ここは慎重に事を進めたいと思っています」
 木戸は六十を迎えようとする年だが、眼鏡の奥の目は爬虫類のように鋭かった。市民から熱狂的な支持があるわけではない。なのにここ十年間市長の椅子に収まっている。
「市長と地元企業の噂についてはどうなんですか?」
 拓実は市長に揺さぶりを掛けた。会議室にざわめきが広がる。
「静かにしてください。新山さん、関係のないことを話さないように!」
 但馬が会議室の混乱を収めようとする。木戸市長は極めて平然としていた。
 結局何一つ決まらないまま懇談会が終わった。拓実が午後のスケジュールを確認していると、梶浦が近づいてきた。後ろには取り巻きが何人もいた。
「昨日テレビを見たよ。握手をしてもらっていいかな?」
 分厚い掌が差し出される。無視するわけにもいかず拓実は握り返す。
「B商事では若いながらに色々なプロジェクトを立ち上げたそうじゃないか」
 口調こそ穏やかだが、お前のことはすでに調べ上げているといわんばかりの態度だ。
「東京の人から見れば、ワシらなんぞ時代遅れの遺物なのかもしれんなあ」
 拓海がA市出身であることは知っているのに、東京から来たヨソ者というのを強調する。
「いえ、その……さきほどは取り乱してすいません」
「いや、ワシは根性がある男は大好きだ。ところで最後に話していた市長の噂はどこまで掴んでいるのかな?」
 突然首根っこを掴まれたよう感覚がした。梶浦の顔からは表情が消え去り、その体躯からは威圧感が漂っていた。
 繋がりが噂されている地元企業とは梶浦の会社であった。
「しかるべきタイミングで表にしたいと思います」
 これは牽制だ。拓実はきわめて無表情に言い放った。
「頑張り給え」
 梶浦は意味ありげな顔をしながら会議室から出ていった。
 疲れがどっと出た。胆力とでもいうのだろうか、まるで獣と対峙したような気分だ。若い自分とは潜っている修羅場が違うのだろう。
 昼食を取るために食堂に向かおうとしたとき、職員に呼び止められた。大柄でプロレスラーのような体格をした男だった。
「奥様が事故に合われたそうです!」
「なんだって!」
「近くの病院に運ばれました。私が案内しますのでこちらへ」
 頭がパニックになり、訳も分からず後を付いていく。
 事故?無事なのだろうか?
 昨日の早苗の顔が浮かぶ。「来週って休み取れそう?」
 そうだ来週は結婚記念日だった。拓実は自分を殴りたくなった。
 どうして忘れていたんだ。
「この車で向かいます」
 黒いハイエースに乗り込む。窓にはフィルムが張られていて、中の様子が見えない。市の車ではありえないのだが、慌てている拓実は何も気づかない。
「病院は近いんですか?」
 職員は何も答えずに扉を閉める。
 不審という感情が心に差し込まれる前に、布で口を覆われた。
 事態を理解する前に意識は切れてしまった。



 目が覚めると、殺風景な倉庫の中であった。マットの上に寝かされている。
 起き上がろうとすると、手枷と足枷が付けられていることに気づく。
「お目覚めかな」
 自分を案内した職員が立っていた。
「どういうつもりだ!早苗はどうした?」
 職員は返事をする代わりに拓実の腹を無言で何度も蹴り上げた。
 喧嘩どころか親にも殴られたことのない拓実にとって、生まれて初めて受ける暴力であった。
「どうも、議員先生。俺は宇内っていうんだ」
 宇内は息を乱さず、ニヤニヤと笑いながら拓実を見下ろしていた。
 百九十に届きそうな身長。
 こんな体格差のある人間が本気を出せば簡単に殺されてしまう。
 股間に生暖かい感触が広がる。恐怖のあまりに失禁してしまったのだ。
「くくく、そんなにビビるなよ。命までは取りはしないぜ」
 漏らした恥ずかしさなど感じる余裕はなかった。
 この状況を理解するだけでも精一杯なのだ。
「奥さんのことは心配するな。事故ってのは嘘だよ。いまとある場所にいる。だが、あんたが反抗的な態度を取れば……わかるな?」
「や、やめてくれ。何でも言うことは聞く!金がほしいならくれてやる!」
「金は要らない。これはある御方からの依頼でね。俺は与えられた仕事をやるだけだ」
 顔がどんどん接近してくる。
 何をされるか分からない恐怖で頭がおかしくなりそうだった。
 ところが、宇内の行動は拓実の予想を裏切るものであった。
 唇を重ねてきたのだ。一瞬のことで訳も分からず、舌の侵入を許してしまう。
「男とのキスはどうだい?」
 呆気にとられていたがすぐさま嫌悪感が襲ってくる。口内に残る感触や匂いに吐きそうになってしまう。
 宇内は拓実のシャツのボタンを一つずつ外し始めた。まるで男が女の服を脱がすように。
「ソソるねえ」
 宇内の言葉は女体を目の前にした男のそれであった。
「君の目的は何なんだ?」
「ここまでされても気づかないのか?大学を出ててもバカなんだな」
 濡れたズボンを脱がされる。下半身はパンツだけという情けない格好になる。
「お前に男の味をたっぷり仕込んでやるのさ」
 その視線は触手のように絡みついてくる。初めて向けられる好色の眼差し。俺は犯されるのか……。
「立派な経歴のわりには平凡なチンポだな」
 仮性包茎の性器が引っ張り出される。長さは普通だが、太さはなかった。 
「議員先生は最近奥さんとセックスしているのか?」
「そ、そんなこと」
「別に浮気でもいいんだぜ。女を抱いてるのかよ」
「早苗とはあまり……」
「ずいぶんと堅物だな。それにしてもこんな細いモノじゃ奥さんは物足りないんじゃないのかな」 
 宇内は竿をパクリと咥えた。
「な!や、やめろ!!」
 腰を動かして逃れようとするも、手足を拘束されていてはされるがままであった。さらに絶望的なのは宇内の舌技が驚くほど上手であった。ぶっきらぼうな風体からは想像も出来ないような繊細な舌使い。拓実の竿が徐々に固くなりだす。
(男に舐められて勃起してしまうなんて、俺は変態だったのか)
 裏筋を丹念に舌で突かれる。強烈な快楽が走り抜ける。
「塩っぱくて美味かったぜ。どうだ俺のフェラは。女とは違うだろう」
 竿は完全に上を向いていた。自分が興奮しているという何よりの証拠である。
「こ、こんな端ないこと……」
 愛する人以外とは交わってはいけない。女性を尊重しなければいけない。それが性に対する拓実の戒律であった。
 当然フェラチオなどという行為はこれまでさせたことはなかった。
「おや初体験だったか。くく、それも幸せなことだよ」
 宇内は指サックをつけて、ローションを塗りだした。経験が少ない拓実とはいえ次に何が起こるかは予想できる。
「最初だから優しくしてやるよ」
 尻穴にヒヤリとした感触が走る。一本の指が穴の上を何度も行き来する。時折、もう一方の手が性器の辺りを弄る。
「あぁ」
 スルリと指が入り込む。第二関節あたりまで差し込まれ、その状態で手コキされる。
 射精してしまう。精神は拒否しているのに、肉体には逆らえなかった。
 しかし、宇内の手はこみ上げてくる精を感じると、その動きを止めた。その代り指をさらに深くする。
「ここが前立腺だ」
 指の腹でグイグイと押される。生まれてから一度も意識したことない場所。刺激されると快とも不快ともいえないような感覚が広がる。
 手の動きが再開される。一気に高みまで登ったが、再び手が離れる。
「尻の中の感触でイキそうかどうか分かるんだ」
 悪魔の宣告であった。すでに散々に焦らされており、射精欲が溜まりに溜まっている。
 これが宇内の作戦であった。射精という男の特権を支配下に置くことで、拓実の自尊心を粉々にするのだ。敗北と共に絶大な快楽を味わえば、人間は精神はいとも簡単に変わってしまう。
「あぁ、やめ、ああ」
 何度も何度も繰り返される寸止め。拓実の頭はもう出したいという欲求で一杯であった。性的欲望からは距離を置いて生きてきたため、快楽を堪える力が極端に弱かった。
「女みたいにイカせてとお願いしろ。そうすれば解放してやる」
 いくら我慢に我慢を重ねているとはいえ、そんな屈辱的な言葉は口に出せるはずがなかった。
 カウパー液がローション代わりになり、亀頭をこねくり回される。
「ひ、ひゃあ、やめ、やめろぉ」
「なかなか言わないが、奥さんはどうなってもいいのか?」
 この状況で一番思い出したくない顔が頭に浮かぶ。
 そうだ、これは早苗を助けるため。無理やりな言い訳であることは分かっているが、罪悪感を少しでも誤魔化すためにはこうするしかなかった。
「い、イカせて」
「もっと可愛く」
「イカセてぇ」
 裏声で叫びを上げる拓実。もはや男のプライドはズタズタであった。
 宇内の手がゆっくりと動き出す。堰き止められていた精が一気に流れ出す。
「あぁぁ!!」
 脳天が震え、白いマグマが噴出された。同時に前立腺が刺激され、さらに加速する。
 下半身が蕩けるような人生で一番気持ちいい射精であった。拓実はもう訳も分からず圧倒的な余韻に震えていた。

「もし警察に連絡すれば、奥さんの命の保証はないと思えよ」
 宇内が運転するハイエースから降ろされると自宅の前であった。灯りは点いておらず真っ暗な我が家である。
「あら、旦那さん!今日はとくに遅いのね」
 遅い時間であるのに吉江は玄関のところに立っていた。
「ところで奥さんどうしたの?昼間血相を変えて家から出ていかれたけど」
 おそらく妻も自分と同じように騙されたのだ。だが知られる訳にはいかない。とくに吉江のような人間にバレたら余計にややこしくなる。
「義父が倒れたみたいで実家に戻ったんです」
 とっさに嘘をついた。
「あらそう。ところで何か臭わない?」
 外灯を点けてないので吉江には拓海の服の状態は見えていないようだ。
「おやすみなさい」
 それ以上の追撃を躱すように急いで家に入った。
 ひっそりと静まり返った廊下。昨日まで迎えてくれていた早苗はいない。警察に連絡するべきか。しかし、下手なことをして取り返しのつかないことになったら。
 リビングで電気も点けずにソファに座る。早苗のことを考えたいが、さきほどの屈辱が頭から離れない。
 あの異常な状況でどれだけ感じようが、どんな言葉を吐こうが、自分のものではない。一時の気の迷いに過ぎない。
 後悔から逃れるには全部嘘だったと思うしかない。しかし、汚れた下着の感触と匂いが全てが現実であったことを物語っていた。

 

 最初に出会ったのはサークルの新歓コンパだった。周りのノリに気後れしている早苗に声を掛けた。同じ地方出身者だと思っていたが、東京生まれと聞いて驚いた。話していると不思議と気分が落ち着いた。
 いつの間にか二人でいることが当たり前になった。社会人になって結婚した。A市で議員になると決めたとき、決して反対せずに「あなたが決めたのなら、私はついてくわ」と言ってくれた。
 インターホンの音で目が覚めた。いつの間にかソファで寝ていたようだ。早苗の夢を見ていた気がする。
 そうだ、早苗。きっと帰ってきたんだ。拓実は急いで玄関に向かった。
「はじめまして、前島京香といいます」
 黒髪ショートヘアーのスーツ姿の女性。スカートから白い足が伸びている。背は拓実よりも低い。顔立ちは幼く、新卒の社会人のような初々しさがあった。
「あなたは一体?」
「話してください」
 差し出されたのは拓実の携帯電話である。昨日いつの間にか盗られていたようだ。
「もしもし、あなた?」
「早苗!!」
「あぁ、よかった!」
「き、きみは大丈夫なのか?」
「わたしは無事よ!どうかその人の言うことを聞いて!!」
 突然電話が切れた。無事を確認できたという安心感で、膝から崩れ落ちた。
「だいぶ匂いますね。シャワーを浴びてもらえますか?」
 京香の目的は何だろう。昨日の男とはどういう関係なのか。聞きたいことは山程ある。
 宇内には歯向かう気すら起きなかったが、いま目の前にいるのは小柄な女性だ。強引に聞き出せば手がかりを掴めるのではないか。しかし、異常な状況とはいえ、女性に乱暴するのは気が進まなかった。
 拓実が脱衣所に入ると、京香も一緒に入ってきた。
「服を脱いでください」
「えっ、でも」
「これは命令です」
 きっぱりと言い切る京香。
 ただ全裸になるだけでも抵抗があるのに、服、しかもスーツを着た若い女性の前となると余計に羞恥心を感じてしまう。
「全然体毛が生えてないんですね。手間が省けます」
 京香は鞄からタオル、シェービングクリーム、カミソリを取り出した。洗面所でお湯を出し、タオルを絞ると、拓実の陰毛を拭き出した。
「な、なにを!」
「動かないでください」
 シェービングクリームが塗られ、カミソリでジョリジョリと剃られていく。あっという間に無毛になる。
「さぁ、シャワーを浴びてください」
 さすがに浴室までは一緒に入ってこなかった。鏡に映った下半身は貧相を通り越し滑稽であった。もともと大きくないサイズがパイパンになったことで、子供のオチンチンにしか見えなくなった。
「これに着替えてください」
 シャワーを浴び終わったあとに待っていたのは、白色の女性下着と襟元にリボンをあしらった紫のワンピースであった。
「これ着るの?」
「当然です」
 ブチッと頭の中で何かが切れた。気付いたときには掴みかかっていた。
「いい加減にしろ!!早苗を返せ」
 理不尽な状況への怒りが一気に吹き出した。
 裸の男に凄まれているのに京香の目はまったく怯んでいなかった。その反応は拓実にとって予想外だった。
 京香の小さな手が拓実の腕を掴む。その瞬間に視界がグラリと揺れて床に叩きつけられた。
 激痛が走る。拓実は華奢な京香に組み伏せられていた。
「新山さんって人を殴ったことないでしょう?」
 その声はさきほどと同じく丁寧だがゾッとするほど冷たい。
「女だったら勝てると思いましたか?」
 腕を捻る力が徐々に強くなっていく。
「昨日の宇内にはこんなことしようと思いましたか?お腹蹴られてオシッコ漏らしたって聞きましたけど」
 キリキリと骨が軋んでいく。このままだと折れてしまう。 
「やっぱり男の人って女を見下してるんですよね。ポッキリとやっちゃいましょうか?」
「や、やめてくれ!!」
「さぁ着替えてください。次歯向かったら、腕一本は覚悟しておいてください」
 ただの女性じゃない。何者なんだ。
 拓実は下着を恐る恐ると手に取った。
 ブラジャーの締め付けが敗北感をより強くした。情けなさがこみ上げてくる。
 ワンピースはふわふわと空気が通り抜けて、とても頼りない気がした。この格好は裸を見られるより恥ずかしい。
 リビングのテーブルには化粧道具一式が広げられていた。京香はさながら化粧売り場の店員であった。
「ヒゲが全然生えてない。肌もずいぶん白いですね。さて、今日から女としての嗜みや立ち振舞を学んでもらいます」
「ど、どうして僕が」
「ある御方の命令です」
 昨日の宇内も同じことを言っていた。ある御方とは誰なのだ。
「しかし仕事が」
「今日のスケジュールはすべてキャンセルしました」
「そんな勝手に」
「表向き、私はあなたの秘書になってます」
 有無を言わせぬ口調だった。
「いまから化粧の手順を教えます。細かい動きは実際に手を動かさないと覚えられないから練習してください」
 京子は説明を交えながら拓実の顔に化粧を施していく。
 最後に茶色の毛先がカールしたロングウィッグを被せられ、手鏡を渡される。
「これが僕」
 まるで別人であった。整った顔立ちは化粧をすることで女性にしか見えなくなっていた。
「今日から男性下着は禁止です。全部捨てます」
 立ち振舞のトレーニングが始まった。立つ、歩く、座る、物を取る、箸を使うといった動作や表情や言葉遣いまで徹底的に仕込まれた。
 時計が正午を指した。
「ちょうどいい時間ですね。浣腸をしましょう」
 ランチメニューを決めるみたいに浣腸という言葉を出す京香。
「あ、その前にこれをつけます」
 京香の手には透明なプラスチックの男性用貞操帯が握られていた。
「スカートを捲ってください」
 京香が拓実のスカートの中に潜りむ。幼女が変質者に弄ばれているような光景だ。
「鍵は私が管理します。一日中つけてもらいます」
「そんな。トイレはどうするんですか?」
「貞操帯の先に隙間がありますので心配なさらずに。まぁ外での立ちションは出来なくなりますけどね。これからは個室トイレで座ってオシッコしてください」
 かなりの圧迫感がある。
 平常時にこれならば、勃起したときは激痛が走るのではないだろうか。
「し、しかし、例えば朝とか…そういうときはどうすれば」
 こんな状況なのに拓実は女性の前で下の話ができなかった。
「朝立ちですか?大丈夫です。最初は痛いでしょうが、そのうち勃起しなくなるんですよ。さあテーブルに手を突いて、お尻をこちらに向けてください」
 貞操帯を付けられたせいか、歯向かう気持ちすら起きなかった。
「まずは解すことが大事なんです」
 指先で穴を撫でられるとどうしても身体が硬直してしまうのだが、そのたびに京香が「リラックスして」と声を上げる。
「浣腸って色々ありますけど、最初なのでベーシックなイチジクを使いますね」
 差し込まれる感触があり、冷たいような熱いような液体が注入される。時間が経つに連れ便意が強くなっていく。
「こういうことするのに何万というお金を払う人もいるんですよ。新山さんはタダでヤッてもらえて幸せですね」
 女装させられ、浣腸させられる。倒錯的な変態行為にお金を出す人間がいるなんてとても信じられない。
「トイレに行かせてください」
「ダメです。もう少し堪えてください」
 排泄の主導権を握るのは京香の得意なやり方であった。人間は我慢していると思考力が落ちて命令を聞きやすくなる。殴って立場を教えるよりも強烈なインパクトを与えることができる。
「さっき教えたみたいに、下品に動いちゃだめですよ。エレガントに歩いてトイレまでいってください」
「は、はい。わかりました。だから、だから」
「大の男がみっともないですね」
 じわりじわりと言葉で追い詰める。もう完全に京香のペースになっていた。
「ほら行きなさい」
 まるで犬に餌を与えるような口調だった。拓実は急ぎたい気持ちを抑えて、女性のような歩き方でトイレに向かう。
「じゃあ、これつけて」
 トイレから出てきて渡されたのは黒いゴムのアナルプラグであった。
「一番小さいサイズです。ローションはちゃんとつけてください」
「ここで挿れるんですか」
「当たり前です。タンポンだと思ってください」
 京香は可愛い顔をして、男のプライドを平然と踏みにじってくる。
 プラグにローションを塗りつけ、スカートの中で自らの穴に充てがう。簡単にスルリと入り込む。浣腸のおかげで充分に解れていたからだ。
 肉体の中に異物がある感覚は妙なものであった。小指の大きさほどのプラグであるが、中に入ると何倍かに膨らんだように感じた。
「毎日つけます。それとサイズはだんだんと大きくしていきますよ」
 京香の瞳はサディスティックに燃えていた。その中に映る拓実に精悍な青年議員の面影はなくなっていた。



 駅前。朝日の中をサラリーマンや学生が慌ただしく行き交っている。
「みなさん、おはようございます」
 拓実は拡声器を携え、朝の挨拶を始める。通称「朝立ち」と呼ばれる。A市の現状や自分の活動などを熱心に語る。しかし、大半の人間は通勤通学の忙しい時間ということもあって素通りしていく。
 ネットやマスコミは拓実のことを人気者のように取り上げるが、実際はこんなものであった。議員になって痛感したのは、市民に関心を持ってもらうことの難しさだった。
「さぁ次の現場へ」
 京香が促す。彼女は秘書として常に行動を共にしていた。
 調教が始まって二週間が過ぎようとしていた。毎日、化粧の仕方や立振舞、女性下着、アナルプラグ、浣腸、貞操帯。ときに仕事をキャンセルしてまで行われた。
「奥様からの電話です」
 京香が運転する車内。従順に調教に従っていると、ときどきこうやって早苗と話す機会をくれる。
「もしもし、早苗か?」
「あ、あなた?はぁ、わ、わたしはげんきでやってるわ」
 いつもと様子が違った。声が荒い。
「僕は平気さ。きみこそ体調は大丈夫かい?」
「ええ、ああん、だ、だいじょうぶよ」
「とにかくあと少しの辛抱だから」
 どれくらい経てば解放されるのか分からない。
 それでも心配の気持ちからそう言わざるえない。
「もうすぐ着きます」
 京香が電話を取り上げた。
 商工会議所では他の議員も何人か来ており、その中には但馬の姿もあった。
 いつもなら活発に発言をする拓実だが、すっかり意気消沈していた。スーツの下には女性下着をつけ、男性器には貞操帯、お尻にはアナルプラグを挿れている。
 自分は変態なんですと宣言しながら歩いているようなものだ。何かの拍子にバレないかと常にビクビクしている。
「新山くん、ちょっといいかな」
 打ち合わせ終了後、但馬が声を掛けてきた。
「きみ最近様子がおかしいよ。何かと言うと上の空だし、なにか悩み事でもあるのかね?」
 その表情にはいつものような厳しさはなかった。
「いえ、別に……」
 心配されているのは意外だった。但馬は自分のことを目の敵にしていると思っていた。
「私が厳しく言うのは新山くんに期待してるからなんだ。いまA市は重大な岐路に立っている。市民にもっと政治に関心を持ってもらないといけない。だから、君のような若い人に頑張って欲しいんだ」
 拓実はすべてを打ち明けたかった。しかし、京香は調教中に何枚も写真を撮り、逃げたらネットにばら撒くと脅してくる。早苗こともある。八方塞がりであった。
「但馬さんすいません。次の仕事がありますので」
 京香が割って入ってきた。
 その目が一瞬拓実を捉えた。喋ったらどうなるか分かるな、と。
 その日、すべてのスケジュールを終えて家に着いた。いつものように浣腸をしてシャワーを浴びる。ここで京香は帰るのだが、その日は違った。
「これを着て、化粧をしてください。貞操帯はつけたままですよ」
 渡されたのは水商売の女が着るような派手なミニドレスだった。肩の辺りはレース地でパールがキラキラと光っており、下は黒いタイトスカートだ。ストッキングもある。
 金色の盛り髪のウィッグを被る。それに合わせてメイクは派手目に仕上げた。
 拓実はもうひとりで完全女装ができるようになっていた。
「これからある御方のところへ向かいます」
「この格好で外に出るんですか?」
 これまで調教はすべて室内で行われていた。議員である自分が女装して出歩いているなんてバレたら終わりだ。
「しっかりエスコートしますから心配なさらずに。それにいまのあなたはどう見ても水商売の女ですよ。だれも新山拓実議員だなんて思いません」
 玄関には薄いピンクのヒールが置かれていた。
「外には誰もいません。さぁ行きましょう」
 京香の運転で車を出した。しばらく走ると住宅街に入っていく。
 高い塀で囲まれた大邸宅の前に着く。
「降りてください」
 手入れされた木が並ぶ広い庭が目に入る。大きく黒いドアに前に立つ。
 出迎えたのは梶浦朝樹であった。黒いポロシャツに下はスラックスという格好だ。
「京香、ご苦労だったな」
「依頼どおりに仕上げました」
「これはこれは、ずいぶんといい女になったな」
 梶浦の舐めるような視線が拓実の頭からつま先を何度も行き来する。
 かつて対峙したときとは違う恐怖があった。足が竦んでしまう。服が変わっただけなのに、どうしてこんなに怯えてしまうのか。
「報酬はいつもの口座に振り込んでおく」
「ありがとうございます。またよろしくおねがいします」
 京香は頭を下げて、出ていった。
 拓実はすべてを悟った。今回の一件は梶浦が犯人。木戸市長との繋がりをバレるのを恐れたために仕組んだことだ。
「来い」
 広いリビングであった。拓実の家の三倍はあった。壁にかけられた巨大なテレビ、ガラステーブル、ゆったりとしたソファ。バーカウンターがあり、棚には上等な酒が並んでいた。
 梶浦は一本の酒瓶を取り上げた。
「飲むか?ブランデーだ」
「あなたは一体どういうつもりですか?」
 梶浦は何も答えずに悠然と酒を作り出した。グラスに氷が転がる音が響く。
「ワシの家は貧しかった。母はそんな生活に嫌気が差して、外に男を作って出ていった。父は酒に溺れ自殺した。親戚をたらい回しにされて、中学を出てすぐに働いた。腕一本で会社を立ち上げ、世の中を渡ったてきた」
 梶浦はブランデーを煽ると、また注ぎだした。その眼光には獣じみた凄みがあった。
「所詮、お前の言うことなどガキの戯言だ。甘ったれの阿呆だ。世の中のすべてに金が必要なんだ。食うか食われるかだ」
 拓実は思わず生唾を飲み込んだ。目の前にいるのは、法律や倫理を当たり前のように無視して、欲望を満たそうとする怪物。
「これまで楯突く人間は殺してきた。しかし、最初にお前を見たとき、雷に打たれた」
 梶浦が腕を上げた。殴られると思って身体を固くすると、その手は頬を優しく撫でた。
「ワシは男色家、それも女のような男が好きだ」
「だから、こんなことを……」
「これまで何人もの愛人を囲ったがな、もともと女になりたい男だと味気なくなってきた」
「狂ってる」
「お前に一目惚れしたんだ。ワシの嫁にしてやりたいと思った」
 結婚して妻のいる男を嫁にしたいなどというのは狂気の沙汰だ。
「だがそれが叶わないことも分かっている。だから今日が最後だ。ここでワシに女として抱かれたら、明日妻に会わせてやる」
「本当か?」
「嘘は言わない。ただちゃんとお前が女になって抱かれないと駄目だ。そのために時間をかけたのだからな」
 下品な笑いを漏らす梶浦。またブランデーを煽った。
「外見は合格だ。あとは内面だけだが……」
「わかった」
「物分りが良い。さぁ上の寝室に行こう」
 キングサイズのベッドに押し倒される。格好だけ見れば風俗嬢と客である。
 荒々しく唇を押し付けてくる。煙草とアルコールの匂いが突き抜ける。ぬらぬらと舌が蠢く。早苗とのキスはあんなにも甘いのに、この男との口づけはただ苦いだけであった。
 この苦味が自分が男である証拠。どんなに外見を取り繕って、調教を受けたとしても、根っこの部分は変わらない。
 梶浦は服をすべて脱いだ。獣じみた躰が現れる。
 せりだした腹の下には巨大な欲望が潜んでいた。黒く使い込まれた色をしている。禍々しさすら感じるほどの存在感がある。
「しゃぶってもらおうか」
 頭を押さえつけられ股間に導かれる。
 目の前にあるのは血が通い、脈が流れ、生きている物体。おまけにその持ち主は、妻を誘拐し、自分に男として最悪の屈辱を味あわせている。
 意を決し、顔を近づける。小便と雄の匂いが強くなった。生々しさに吐き気を覚える。
 口を大きく開けて、パクりとくわえる。しょっぱさが強い。舌を絡め上げ刺激していく。京香による地獄の口奉仕特訓のおかげで歯をたてることなくフェラチオが出来るようになっていた。二週間程度の短い間でも散々叩き込まれたので、無意識に口が動いていく。
 だが、ゴムと違うのは主の反応がある。梶浦は低い息で唸ると、拓実の頭を撫でた。
「この口で市民にどんな立派なことを言うのかな」
 拓実の舌が止まった。政治家にとって言葉は神聖な武器であった。自ら発する言葉が人々の気持ちを震わし、社会全体を動かしていく。その言葉を発する口が汚れされた。
「おい口が止まっているぞ」
 すでに半立ちほどの固さを持った肉槍がぐいぐいと喉奥に押し込まれる。
 散々ゴムのディルドで喉を責められたが、実際となると苦しさは段違いであった。見上げると勝ち誇った梶浦の顔があった。分かりやすいくらいの敗北だ。
 鼻先に陰毛が刺さる。苦しさのあたり手をバタバタと動かす。ほとんど息ができなかった。
「あぁぁ」
 引き抜かれたあとはたまらずその場で蹲った。咳き込み、えずきが止まらない。
 拓実のミニスカートがずり上げられる。茶色のストッキングに包まれた下半身が露になった。ピッタリと張り付くナイロン生地。股間のあたりだけは貞操帯によって隙間が作られていた。
 二週間の貞操帯調教によって拓実の性器は勃起できなくなっていた。少しでも硬くなると激痛が走る。最初は必死に我慢していたが、そのうちに勃たなくなっていった。
 梶浦の下半身は悠然と天井を向いていた。血管が浮き出てドクドクと脈打っている。完全な戦闘態勢に入った。
 凄い……。拓実は思わず目が釘付けになった。かつては自分も持っていた当たり前の感覚なのに、いまは思い出すことすら出来ない。
「もうすっかり勃起しなくなったそうだな」
 ストッキングがビリビリと破られる。梶浦の手には鍵があった。
「男を従順にするには貞操帯が一番だ」
 南京錠に鍵が差し込まれる。そのとき拓実は自分の中に金属の鍵が入ってくるような感覚を覚えた。貞操帯は脳の中で身体の一部となっていたのだ。
 果物をもぎ取るような手付きで貞操帯を外す梶浦。
「もうこれは必要ない」
 分厚い掌が柔竿を揉みし抱く。二週間ぶりに受ける刺激。それなのに反応は鈍かった。拓実の性器は沈黙したままであった。
「そこに手を着け。尻が高く上げろ」
 尻周りのストッキングが破られる。恐ろしくて振り返ることができない。太い指先が尻肉に食い込む。欲望のままに動く手が中央の菊穴に徐々に近づいてくる。
 拇印を押よう親指を穴に沈ませる。
 ペッとツバを吐いた。尾てい骨のあたりに温い感触が走る。梶浦は指でツバを穴に擦り付け、人差し指をあてがった。
 メリッという音がした。指が第二間接まで侵入してくる。
「ほほう。いい具合に仕上がっとる」
 浣腸とプラグによる調教で穴はなんなく広がる。痛みはないが心はズタボロであった。
「ワシのイチモツは大きすぎるからケツ穴を壊してしまう。だから、宇内と京香に調教を依頼した。」
 指が引き抜かれる。次に来たのは太い先端であった。思わず振り返る。梶浦の腰がピタリと付けられている。
「宇内はノンケに男の味を教え込み、京香が女性化させる。いいコンビだろう」
 分厚い亀頭が穴を撫で回す。梶浦はその上からローションを垂らした。
 ぐぃっと入り込む。拓実はシーツを握りしめた。
 ゆっくりと肉を掻き分け、深く沈められる。
 直腸が梶浦の肉棒で満たされる。指やプラグとはまったく違った。意思を持った一つの生命が体内に棲みついたのだ。
 にゅるっと引き戻すと、またズドンと打ち込まれる。そのストロークはだんだんと広がっていく。
「おぉ、たまらん。こりゃたまらん」
 梶浦が唸る。拓実は首を振って、ただ耐えるしかなかった。
 こんな酷い仕打ちがあるだろうか。揺れる視界の中に早苗の顔が浮かぶ。あぁ、早く会いたい。早く抱きしめたい。
 こみ上げてくるものが現実逃避の想像を打ち消す。身体の内側から快楽が広がっていく。必死に否定しようとも、梶浦の熱い抽送に感じていた。
 太い肉棒の先端が腸壁越しに前立腺を押し上げる。拓実は深い愉悦の声を上げた。
「あん!ああん!い、いい」
「ここか、ここがいいんだろう」
 梶浦の執拗が腰使いが、拓実のGスポットを的確に攻め上げた。もう声を我慢する気はなかった。雌の産声を叫んだ。
「はぁ、ああ!!う、ああん」
 小竿は柔らかさを保ったまま、ビビッと震えた。拓実の穴は肉槍を締め上げる。
「おぉ、こりゃキツイ。さてはイッたな」
 先端からボトボトと精液が溢れ、シーツの染みとなっていった。二週間は射精していなかったため、尻穴の刺激だけで果ててしまったのだ。
「処女でトコロテンするとは可愛い奴だ」
 大きな山を越えたが、梶浦の腰は止まらなかった。休むことなく繰り返されるピストン。疲労感で頭が朦朧としてくる。
「男が行くまで終わらないのがセックスなんだよ!」
「きゃあ、あ、ゆ、ゆるして、ゆるしてぇ」
 梶浦は尻たぶをピシャリと打った。痛みすらも心地よさに変わっていく。拓実は恐怖を覚えた。自分の肉体が自分の知らないものになろうとしている。
 ベッドの軋む音が激しくなる。涙でアイラインが溶け、涎でルージュが崩れた。もはや子供のように泣き叫ぶしかなかった。
「イクぞ!!女にしてやる!!」
「だ、だめぬ、ぬいて、はやくぬいてぇ」
 肉棒の動きが激しくなる。ビクビクと震えると、濃い精子を飛ばした。
 その熱さや粘り気は否応無しに感じ取ることができた。嫌悪感が全身を走るのに、その原因は取り除くことができない。
 まだ怒張を保ったままの性器がゆっくりと引き抜かれていく。ぽっかりと空いた菊穴からはドロドロした精液がこぼれだした。
 玉袋へと伝う熱い感触に拓実はただ打ち拉がれていた。



 拓実はゴミ袋にディルドやアナルプラグを放り込んだ。こんな忌まわしいものは二度と見たくなかった。
 昨日の記憶も早く忘れたかった。精を放った梶浦は「シャワーでも浴びていけ」と言ったが、拓実はこの場から立ち去りたい一心であった。
 男物の服を借りて、タクシーで帰ってきた。
 今日は朝から早苗を出迎える準備をしていた。数週間遅れの結婚記念日を祝おう。出会った頃の思い出話になんか花を咲かせて、ゆっくりと二人の時間を送りたい。
 ゴミ袋を縛ったとき、電話が鳴った。市議会の但馬からである。
「新山くん!いますぐテレビをつけるんだ!」
 あまりに強い口調なので急いで電源を入れる。
 何かの記者会見のようだ。涙ながらに何かを語る女性。早苗であった。
「昔から夫は何かにつけて私を叱りつけてきました。この頃は手を出すようになってきて」
 顔には青あざをつくり痛々しい様子だ。
「毎晩のように殴られ、怖くて怖くて」
 電話から但馬の声が響いてくるが、拓実の耳には入ってこない。
 チャンネルを変えても同じようなシーンばかりであった。ある番組では近隣住民の証言という映像が映されていた。
「奥さんが出て行って、見知らぬ若い女性が出入りするようになったんですよ」
 顔は映ってないが明らかに吉江だった。
「とりあえず庁舎まで来てくれ!一刻も早く!!」
 我に返ると、電話が切れていた。
「どうやら新山氏には不倫疑惑があるようです。秘書と付き合っていたらしいのですが、みなさんどう思われますか?」
 男性司会者が神妙な面持ちでコメンテーターに意見を求める。
「許せないですね。か弱い女性に暴力を振るって、その上に愛人まで」
「典型的なDV夫だと思います。若くしてに成功した男性にはよく見られる現象です」
「A市のイメージはガタ落ちでしょうな」
 外が慌ただしくなってきた。窓を覗くと、たくさんのマスコミが押しかけていた。
「新山さん、今回の件について一言お願いします!」「DVは本当なんですか?」「お話を聞かせてください」「秘書とはどういう関係ですか?」
 まるで暴力であった。アイドル議員だなんだと散々持ち上げておいて、こんなに手の平を返すものなのか。
 恐怖を覚えた拓実は玄関の反対側の窓からこっそりと外に出た。
「あら、旦那さん。なんだか大変なことになったのねえ」
 裏庭でガーデニングをしている吉江が声を掛けてきた。まるで自分は無関係だと言わんばかりに。
「でも騒々しいわ。この辺りは静かな町なのよ」
 拓実は無視して走り出し、駅に向かった。 
 電車はひと目があるのでタクシーに乗り込む。運転手は拓実の顔を「あ」と声を上げそうになったが、それ以上は何も言わずにアクセルを踏み込んだ。運転中はミラー越しに拓実をジロジロと見ていた。
 庁舎にもマスコミが押しかけており、今度は揉みくちゃにされる。
 必死の思いで中に入ったら、周りの人間の冷たい視線が突き刺さった。議員たちも我関せずの顔をしている。
「新山くん、こっちへ」
 但馬に呼び込まれる。
「これは一体どういうことなんだね」
「ぼ、僕はやってません。これは罠なんです」
「抗議の電話が鳴りっぱなしだ」
「梶浦にハメられたんです」
「何か具体的な証拠でもあるのかね」
「それは……」
 こちらが告発すれば、京香が変態調教の写真を拡散させるはずだ。DVの件以上に不味いことになる。
「奥さんは殴られたと言っているし、実際に秘書の女の子を連れていたろう。とにかく、いまさら何を言っても後出しジャンケンだ。私とて庇いたい気持ちはあるが、もうこれ以上議員の仕事を続けるのは無理だろう。午後一で記者会見を開こう」



 カーテンの隙間から外を覗くと、数人の男が立っていた。テレビ局か週刊誌の記者だ。
 一人がこちらを見たような気がして、慌てて隠れる。自分の家にいるのにどうしてこんなにコソコソしないといけないのだ。
 拓実は議員辞職に追い込まれた。
 辞めたあともマスコミの追求は続いた。インターネットでは誹謗中傷が飛び交った。外を歩けば市民にスマートフォンで写真や動画を撮られ、ときに罵声を浴びせられた。
 持ち上げるときは持ち上げ、落とすときは一気に落とす。爽やかなアイドル議員はすっかり悪人になってしまった。
 周りの人間は一斉に離れた。誰も味方をしてくれなかった。
 結局、早苗とも連絡がついていない。あの記者会見以来姿が見えないらしい。
 拓実は家に引きこもり、誰とも会わなくなった。
 拓海はクローゼットから早苗の服を取り出した。そこにはまだ彼女の香りが残っている。どうして君は僕を裏切ったんだ。
 階下で物音がした。急いで降りると、いたのは梶浦であった。
「京香が合鍵を作っていたから入らせてもらったよ」
「そ、外のマスコミは」
「ワシの力で追い払った。専門家に頼んでネットのほうも沈静化に向かっている」
「あ、ありがとうございます」
 この状態にした張本人なのに、感謝するのもおかしな話だ。
 しかし、人と会話してない日が続いたので寂しさからか梶浦でも嬉しかった。それに彼はすべてを仕組んだからこそ、自分が早苗を殴っていないことを知っている。
「ウイスキーを持ってきた。こういうときこそ飲んだほうが良い」
 梶浦を家に招き入れる日がくるなんてと思ったが、拓実はグラスを二つ用意した。
 ウイスキーを流し込むと、喉が焼ける熱くなった。
「もっとゆっくり飲むんだ」
 咳き込む拓実の背中を擦る金谷。
「あなたはどこまで奪えば気が済むのですか?」
「嫁さんを誘拐したのは別の連中だよ。この騒動にワシは関与していない」
「信じられない」
 梶浦は一口含み、拓実の唇にキスをしてきた。そしてゆっくりと口移しをする。
 アルコールと苦味が混ざりあい、不思議な味がした。
「まだ化粧品や服は残してあるだろう?シャワーを浴びて、着替えてこい。女の姿のほうがワシも楽しめる」
 女装。頭にも登らなかったが、いまのこの状況ならむしろ楽しめるかもしれない。なにせ新山拓実は完全に終わったのだ。別人になるのも悪くない。 
 久しぶりの化粧は心地よかった。鏡に映った自分を見ていると、辛い現実を忘れられる。
「やはり綺麗だ」
 変身した拓海を梶浦は優しく抱きしめる。逞しい躰の感触になんともいえない安堵感を覚えてしまう。
「俺の妻になれ。守ってやる」
 世間からのバッシングでズダボロになった拓実の心に梶浦の声が響く。
「でも、わたしは」
 男に戻ったところで待っているのは辛い現実だ。A市から離れても拓海の悪名は全国に広まっている。
「新山拓実という名前は捨てろ。今日からお前はマミだ」



 テレビ画面の中にいる熱意に満ちた目をした青年議員。
 半年前の自分だということが、頭では分かっていている。でも、心が追いつかない。
「昨年相次いて両親を亡くしました。久しぶりに帰ってきた故郷がずいぶんと寂しくなっていたので、何か貢献したいと思ったんです」
 マミは梶浦にお酌をする。ビールは瓶ビールに小さなコップというのがお決まりの飲み方だ。
「これからは議員としての仕事でアピールしていきたいです」
 今すぐその場から逃げろと言いたくなる。早苗を連れて、どこか遠くへ行くんだと。 
「いやぁ、しかしお前は良いオンナになった」
 梶浦はテレビの中にいる新山拓実と目の前にいるマミを交互に見た。時々、こうやって男だったときのことを思い返させる。女扱いしつつも、男であることを決して忘れさせないのが怪物のやり方であった。
「いまの時間は何をやっているかな」
 録画したA市インフォが終わると、梶浦はチャンネルをザッピングし「くだらん番組ばかりだな」と毒づいた。
 リモコンを放り投げた手がマミの腰に回され、尻を撫でる。
 手は柔らかな肉の曲線を楽しむように動く。三ヶ月前に始めた女性ホルモンのおかげで、体型や肌の質感はガラリと変わった。化粧や服を着なくても女性に見えるようになってしまった。このあいだスーパーで吉江とすれ違ったが、まったく気付いていなかった。
 マミはBカップ程度に膨らんだ胸をわざと密着させた。女をアピールする術はすっかりと板についていた。
 唇を近づけ、舌を絡め合う。脳天がジンと痺れて、ふわふわとした浮遊感に包まれる。もう苦味はなかった。梶浦とのキスはどこまでも甘く幸せな味しかしない。
 身体が熱くなり、乳首がピンと立ち、穴がひくひくと動く。男だったときは興奮すると下半身の一点のみが動いたが、いまでは身体全体で反応するようになっていた。
 ところが、梶浦の手がすっと引かれた。高ぶった熱が逃げ場所を無くす。
「明日も早い。ワシはもう寝るぞ」
 このところ仕事が忙しいのか、マミを抱こうとはしなかった。こうやって甘いペッティングを楽しむ程度で終わっていた。
(……もう)
 疼きを抱えながら一人リビングに取り残される。マミはコップに残ったビールを一気に煽った。



 リビングの掃除を終えたところで、洗濯機のアラームが鳴った。
 エプロン姿のマミはちょうどいいわと思いながら洗濯カゴに服を取り込んでいく。庭に出ると、爽やかな風が吹き抜けた。日差しも強く、これならすぐ乾くと嬉しくなってくる。
 ピンチハンガーに梶浦の白いシャツとトランクス、そしてマミのブラジャーとパンティーを吊るしていく。
 女になってしまったという現実はセックスのときよりも、こういう日常の何気ない光景に存在していた。
 もともと梶浦宅は通いのハウスキーパーがいたのだが、現在はマミが家事全般をやっている。
「お昼にしよう」
 フライパンで野菜やお肉を炒め、その間にパスタを茹でる。もともと料理は好きだったので、食事を作るのは楽しかった。
 昼食後、マミはソファでくつろいでいた。食欲が満たされると、性欲のほうが頭を出す。このところおあずけを食らっているので、ムラムラとした気分になってくる。
 男だったときはオナニーといえば、サクッと済ませるものであった。しかし、いまのオナニーはじっくりねっとり楽しむものとなっていた。
 いわゆるオカズは必要なかった。視覚よりも自分の肉体のほうがよほど刺激的なのだ。
 胸の辺りを撫で回す。ビビッと走るような気持ちよさ。おっぱいが膨らんでから感度は恐ろしいほど高くなった。
「あ、ああん」
 愉悦が自分を女にしたのだろうか。自慰の悦びに浸りながら、昨日見せられた新山拓実、つまりかつての自分が頭によぎる。
 あの夜、マミと名付けられた。梶浦の誘いに乗ったのは気の迷いであった。一時的にでも身を落ち着ける場所があれば、ゆっくり考えをまとめることができると思ったからだ。
 いまこうやって梶浦の妻として生活しているのは、やはり現実的な問題がある。マスコミの追求は終わったが、ネットで「新山拓実」と検索すれば数万単位でDVや不倫の情報がヒットしてしまう。これでは仕事なんてとても探せないし、アパートすら借りれないかもしれない。
「く、はぁ、ああん」
 シャツの上から乳首をコリコリと弄ると、甘い痺れが突き抜ける。
 ベッドの上で女の役割を演じることで、この世のものとは思えない快楽を得ることができる。
 ところがこれはいうなれば一時の感情に過ぎない。性行為のときに女役をするからといって、日常が女になる必要はない。マミも最初はそう思っていた。
 だが毎晩のように抱かれる中で梶浦に対して愛情のようなものを抱き始めた。必死に否定したが、一度火が付いた気持ちは決して実らない子種を注ぎ込まれるたびに激しく燃え上がった。
 そうなると無理やりに躾けられた女の所作が自然と馴染んていき、逆に身体に残る男の部分が疎ましく思うようになった。そんなマミの気持ちを見計らったかのように梶浦はホルモンを進めてきた。
 頭に浮かんだのは早苗のことだ。いまなお彼女を思う気持ちがある。同時に梶浦を想う気持ちもある。そんな迷いを振り払うためにマミは女になることを決めた。
「あん!!」
 乳首だけで軽くイッてしまった。あまりやりすぎると擦れて痛くなってしまう。
 心地いい疲労感を覚えながら、携帯電話を見ると梶浦からメールが入っていた。
 今夜は特別なところへ行く。しっかりと準備しておくように。
 準備とはお尻を綺麗にしておけとのことである。最近お預けだった理由は今日のためかもしれない。あの人は意外とムードを大事にするからね、とマミは嬉しくなった。
 夜になって梶浦が仕事から帰ってきた。
 マミは化粧を済ませていて、格好は黒のオープンカラーシャツにレモンイエローのフレアスカートに着替えた。
 外車の黒いセダンに乗り込む。
 車がしばらく走ると、ネオンの看板が目に入ってくるようになった。てっきりどこかのホテルに行くと思っていたのに風俗街に来るとは意外だった。
 いかがわしいポスターやプレイ内容や値段の書かれた看板がいたるところにある。ここだけ他とは切り離され別世界のような雰囲気だ。
 車から降りると強面の男たちが集まってきた。
「梶浦さん、おつかれさまです!」
 彼らは風貌からしてカタギではなかった。それなのにペコペコしてしている。A市では梶浦の力はヤクザ以上であった。
 こんな権力を持った男を敵に回そうとしていたのか。マミは改めて自分の無鉄砲さを恥じた。
「これ駐車場に回しといてくれ」
 一人の男に鍵を渡すと、マミを連れて目の前の建物に入っていった。濃いピンク色をした三階建てで、入り口前には黄金の人魚のオブジェがある。
 受付があり、ゆったりとしたソファが置かれている待合室があった。そこに宇内と京香がいた。 
「おう、お前ら久しぶりだな」
「どうも梶浦さん。おや、そちらは議員先生?」
「おいおいマミはもう俺の妻だぞ」
「そりゃ失敬。しかし、ずいぶんと乳臭くなりましたね。あんなに良い男だったのに」
「宇内は完全なゲイだからな。もうマミには興味がないようだ」
 最初に襲われたときのギラついた視線が綺麗になくなっていた。マミはどうすればいいか分からずに曖昧に微笑んだ。 
「お久しぶりです。新山様、いや梶浦マミ様とお呼びすればいいですか?」
 京香が話しかけてきた。前と同じようにフォーマルなスーツ姿だ。
「は、はい。マミでおねがいします」
「いまはホルモンだけですよね?女性化手術をするならぜひご相談ください。良い医者をご紹介します」
「ええ……ありがとうございます。でもそういうことは主人と相談しないと……」
 いまのところ外科的な処置はしていなかった。肉体的なことは梶浦に完全に任せている。
「そうですか。いや、必要ないかもしれませんね。もう完全にあなたは女ですよ」
 京香の目は完全に同性を見る目になっていた。
「梶浦様、上のVIPルームをおさえています」
「おお、そうか。お前らも来るか?」
「俺らは別の仕事があるので遠慮しておきます」
「がはは、頑張って稼げよ」
 梶浦とマミはエレベーターに乗り込んだ。
「ここは財界や政界の大物が集まる変態クラブだ。あの二人はクラブ所属の調教師。界隈じゃ名の知れた奴らだ」
「A市にそんな場所があったんですね」
「むしろA市だからだ。探られたら痛い腹を持つ連中は東京なんかではとても遊べない。だからこういう地方にお忍びでやってくるのさ。ワシはそこに目をつけてこの風俗街を作った」
 梶浦と生活するようになって分かったことだが、A市には裏社会が存在していた。風俗を中心とした経済圏が確立され、毎晩多額の金が動いている。
「地元のヤクザに金を渡して、怪しい奴がいないか常に見張っている。安心して遊べるから、奴らは金をたんまり落としていく」 
 エレベーターを出ると一つのドアがあった。どうやらフロワまるごと部屋になっているらしい。
「ここに入れるのは限られたものだけだぞ」
 梶浦は鍵を差し込みドアを開いた。
 赤い絨毯が広がっている。高級ホテルの一室を思わせるほどに広い。中央には巨大なベッドがある。そしてその全体を見渡せる位置にソファとテーブルがあった。
「ここはVIPルームだ。接待のときに使うが、今日はお前のために貸し切った」
 ここまでされて喜ばない女はいないだろう。ムード満点の部屋である。
 梶浦という男は風貌から言動まで昭和の男なのだが、不思議なところで現代らしさを見せる。そのギャップにマミは愛おしさを感じていた。
「せっかくの場所だから娼婦のように誘ってみてくれ」
 恥ずかしいがこういう部屋の雰囲気ならばなりきれるかもしれない。それに今日はとびっきりセクシーな下着をつけている。
 マミは服を脱ぎ始めた。ボタン一つ外すのも男を欲情させることを意識する。腰を左右に振りながらスカートを下ろす。
 この風俗街ではこうやって女たちが男を楽しませている。その末席にいま自分はいるのだと思うと、たまらない興奮を覚えてしまう。
 市議会議員で男だった人間が商売女のように振る舞っている。マミはその堕ち方に震えるような官能を感じていた。
 最初にあった屈辱は、梶浦に抱かれるたびにその形を変え、マミの中に根を張り出した。そして、いま華麗なマゾの花を咲かせていた。
 ピンク色のハーフカップブラジャーとおそろいのパンティー。同じくピンクのフリフリガーターベルトにストッキング。
 艶やかな雌が己の肉体を雄にアピールする。
「しゃぶってもらおう」
 梶浦は仁王立ちのままだ。マミは理解した。わたしが脱がすのね。
 跪き、ベルトに手をかけ、スラックスを下ろす。トランクスの布一枚に隔てられた大竿からムンと男の匂いが漂ってくる。
 どうしてコレに愛おしさを覚えてしまうのだろうか。大きさや生殖能力は劣るが自分も同じものを持っている。でも、コレとは違うから愛を感じるのか。
 咥えようとしたとき、梶浦は腰を引いた。
「ほら付いてくるんだ」
 一種の羞恥プレイであった。梶浦は後ろに下がったり、横に降ったりする。マミは四つん這いのまま、チンポを追いかける。
 部屋の壁には長方形の大きな鏡が立てかけられている。そこに映るマミはまるで犬であった。浅ましく性器を求める自分が本当の娼婦のように見える。
 ようやくありついた梶浦のモノを丁寧に舐めていく。焦らされた分、舌の動きにも熱が入る。だんだんと硬さを帯びてきたところで梶浦はマミの口から引き抜いた。
 まだ完全には硬くなっていないのにと不思議がっていると、梶浦はベッドに腰掛けた。
「じつはこの部屋には仕掛けがあってな。覗き部屋があるんだ。他人のセックスを見ていたいという性癖を持つ人間はそれなりにいるから需要はあるんだが、こういう使い方もできる」
 壁だと思っていたところが開き、中から女性が出てきた。
「あ、あなたなの?」
「早苗……」
 マミは頭を殴られたような衝撃を受けた。一番見てほしくない相手に見られてしまった。
 早苗の目は赤く必死に涙を堪えているようだ。
「どうしたマミ。早くしゃぶらんか」
 興奮は一気に吹き飛んだ。梶浦の声も聞こえてこなかった。
 なにをどう説明していいか、頭は必死に回転しているのに口が動いてくれない。
「呆けてるのか。まぁ、いい。早苗はこのクラブで調教を受けていたんだ。肉体のほうはもうすっかり開発されている」
 早苗の体つきはやや豊満になっていた。
「ところが心は堕ちきっていない。あの記者会見も夫を殺すといって脅迫させて行わせたものだ」
「じゃあ、やっぱりあなたが早苗を」
「いや違う。早苗の管理はすべてこのクラブの調教師が行ったことだ。ワシはお前さえ嫁にできればいいんだからな」
 やはりこの男は怪物だ。そして自分は怪物に魅入られ、魅入ってしまった愚かな女。
「早苗を完全に堕とすためには、マミが必要だったんだ。愛した夫が女になって男のチンポをシャブッていたら愛想つかすだろう」
 梶浦はマミを抱き寄せ、接吻をしてくる。拒もうとしたが力が入らない。
「う、うそよ」
 早苗はその場に座り込んだ。涙をボロボロと流している。
 これは違うんだと否定したかった。ところが口は梶浦によって塞がれ、早苗への償いの言葉ではなく、舌を絡めあっている。
「あなた!目を覚まして!あなたは男なのよ!」
 早苗は半狂乱になって叫んだ。理不尽で辛い環境の中で支えにしてきた夫の存在がいま目の前で崩れていく。これまでの恥辱に耐えてきたのは一体何だったのか。
「ここで早苗とヨリを戻すなら、ワシはお前と別れてもいいぞ」
「え、そんな……」
「あなた!戻ってきて!」
 今更、昔のように戻れるのか。また男として、夫として生きていくというのか。
「わ、わたしは」
 突きつけられた二つの道。心の奥はすでに決まっていた。それをかつて愛した女にどう見せるか。
 マミは跪いた。梶浦の股間に顔を埋め、下品な音を立てながらその巨大な竿を愛し始めた。自分を女にしてくれた尊い肉棒。もう完全に後戻りはできなくなった。自分がどれだけ変態的で最悪なことをしているかは充分に分かっている。
「う、うそよ」
 早苗はもう叫びもせず、泣きもしなかった。ただ呆然としていた。
 マミの口内で完全に勃起した梶浦の肉棒はたまらなく甘美で痺れるような味がした。



「お皿はどこ?」
 ローストビーフを切り分けていたマミは指を指した。
「そこの戸棚に。小さいのを二枚と大きいの三枚ね」
「広いキッチンだね。それにとっても綺麗」 
 かつて二人が暮らしていた家のキッチンよりも梶浦邸のキッチンは大きかった。シンクはピカピカに磨き上げられ水垢一つない。コンロも油汚れがなく、洗剤やスポンジは几帳面に並べられている。
 久しぶりに再会したマミと早苗。現在、早苗は東京で梶浦の知り合いが経営する高級デリヘルで働いていた。今日は密やかな会合が行われるのでA市に呼び出されていた。
「うん、そうだね」
「あなた綺麗好きだったもんね」
 マミは早苗とどう接していいか分からなかった。妻の目の前で梶浦という男を選んだことへの罪悪感、そしてその裏側にはいまだに早苗のことを想っている感情があった。
 グラマランスな肢体を際立たせる紫のランジェリーを着た早苗。豊胸手術によってCカップだった胸はFカップにまで膨らんでいた。顔つきも夫婦だったころの清楚さはなくなり、男を誘う妖艶さを漂わせていた。
「お料理運びましょ」
 早苗のお尻は一回りは大きくなっていた。Tバックの桃尻がなまめかしく動くさまに男ならば視線が釘付けになるであろう。
 あそこまでお尻になれたら、もっとセクシーに着こなせるのに。マミは早苗と同じランジェリーの色違いの赤を着ていた。
 リビングには梶浦とA市市長の木戸が酒を飲んでいた。二人の女がガラステーブルの上には寿司やオードブルが並べる。
 木戸市長は女盛りの色気漂う肉体を鼻息荒く眺めている。
「工場誘致の件、上手くいったぞ」
「さすがは梶浦さん!いつも素晴らしい仕事をしてくださる」
「はは、先方は早苗の身体を十二分に楽しんだそうだ」
 小皿に寿司を取り分けているマミの手が止まった。夫婦の関係が終わったからといって、元妻が他の男に抱かれているのを聞くのは気持ちのいいものではない。
 それに自分が梶浦を選んだばかりに、早苗に商売女のようなことをさせているのは胸が苦しかった。
「こんな美人を好きにできるなら、工場の一つや二つは軽いでしょうな」
「女だけじゃなく、上手い食事、あとは金を積んだがな。骨の折れる接待だったよ」
 マミが酒瓶とグラスを運んでくる。早苗の横に並び、お酒を作り始める。本物の女性と比べると骨っぽさや個々のパーツの大きさが目立ってしまうが、それでも男の目を楽しませる肉体であった。
「おつかれのところ心苦しいのですが、今度の市長選、よろしくおねがいしますよ」
「ああ、任せておけ。またあんたが当選するさ。その代わりの見返りは」
「もちろん分かってますよ」
 木戸と梶浦はグラスを合わせた。チンという音が鳴る。
「しかし、あの色男がここまで変わるもんですな。梶浦さんの趣味には恐れ入ります。アソコはもう切ったのですか?」
「馬鹿言っちゃいかんよ。女のアソコなんぞ臭くてかなわん。どんなに小さくなっても、ぶら下げておくのが乙なのさ。おい、マミ」
 梶浦は目で小竿を見せるように促した。マミはパンティーを少しずらし、中から縮み上がった性器を引っ張り出す。
 「ほほう、これはまるで赤ん坊のオチンチンですな。こんなに小さくなるもんですか?」
「最初は貞操帯で勃起をさせなくして、そのあとはホルモンだな。それでも元々のサイズが小さくないとここまでにはならんよ」
「肝っ玉の小さくせに我々に歯向かおうとしてたんですね」
 木戸はニヤニヤと嫌らしい顔をマミに向けた。議員時代には市長には予算や行政のことで何かと食って掛かっていた。その男が完全に屈服したとなれば、こんなに面白いことはないであろう。
「もうその玉も取った。おい、あれをお見せしろ」
 マミが棚から持ってきたのはホルマリン漬けされた睾丸であった。真っ白で少し大きめのパチンコ玉といった様子だ。
「ひゃあ、これが金玉なんですが。いや初めて見ましたよ。そういえば女房が飼っている犬もこないだ去勢手術をしましてね。足を上げたおしっこをしなくなったんですよ」
「がははは。マミは取る前から座っておしっこをさせていたよ」
「いや貴重なモノを見させていただきました」
「少々、悪趣味だがね。口直しに面白いショーを見てもらおう」
 マミは早苗の顔を見た。その表情には何も浮かんではいなかった。
 先に動いたのは早苗であった。柔らかな唇を合わせ、見せつけるように舌を絡める。
「レズビアンショーですか」
「いやいや、夫婦のセックスだよ」
 木戸は美女二人の激しい接吻を食い入るように眺めている。
 マミにとって久しぶりの女とのキスであった。その柔らかさに戸惑う。こんなにもブヨブヨとしているものに口づけしていたなんて。だが、これはあくまでショー。自分が楽しむためではなく、男たちを喜ばせるものである。
 早苗の指がマミの乳首を弾いた。ピリッとした痛みとジワジワと広がる快楽に舌の動きが止まる。早く再開しなさいと言わんばかりにより強い力で乳首が抓られる。
 腰が引けてしまったマミを早苗はそのまま押し倒す。カーペットの上で元夫の乳首を舐め始める。かつての倍ほどの大きさになった乳首は硬く尖り、マミはたまらずに声を上げだす。
「どちらが女役か分かりませんな」
 木戸はソファから腰を浮かして、二人の乳房に顔を近づける。
「早苗さんのほうがデカさはありますが、形が少しアンバランス。マミさんのは小振りながら男の手の平に収まるサイズだ」
「さすが市長。女を見る目が肥えている。早苗は豊胸手術をしたが、マミはホルモン投与だけだ」
 梶浦は双頭ディルドを犬に骨を与えるみたいに放り投げた。
「乳繰り合いはそのへんにしろ。今度はマミが責める番だ」
「なるほど。もう勃起しないから玩具に頼るしかないんですね」
 マミは血管まで再現された肌色のディルドを掴むと、早苗のパンティーに近づく。目の前にある股間はすでに蜜で溢れていた。夫婦で愛したときにはこれほど濡れることはなかった。彼女がいまどれだけ興奮しているのか同性として手に取るように分かる。
「あ、ああ」
 慎重に元妻の中にディルドを沈めていく。早苗は元夫とセックスした回数よりも他の男たちに抱かれる数が遥かに多くなっていた。みな遊び慣れた男であった。早苗の肉体はあっという間に開発され、いまや淫乱な雌になっていた。
 ディルドが膣の中を進んでいき、子宮に到達しようとしていた。くわえ込む様子を見て、マミの下半身がうずき始めた。
 マミは自分の手でディルドにローションを塗り、それを菊穴にあてがった。ゆっくりと押し込み。圧迫感が心地いいがしっかりと解してないのでやや痛みが走る。ディルドが止まったところを早苗が膣を使い押してくる。
 熱に浮かされた顔をしながらもその目は鋭くマミを捉えていた。愛情なのか、恨みなのか、複雑に入り混じった視線だった。
「もういいぞ。市長、早苗を抱かんか?」
「いいんですか。いやもうさっきから我慢できなくて」
 二人の男性の股間に顔を埋める二匹の雌。
 木戸の性器は年齢を感じさせないほどに硬くなっていた。陰毛には白いのが目立つが、竿は完全な戦闘態勢に入っている。早苗は大きく咥え込み、舌でレロレロと舐め回す。
 マミもまた口奉仕を始める。愛おしさを覚える肉棒を口いっぱいに頬張り、感じるポイントを的確に責めていく。
 カーペットに置かれたマミの手に、早苗が手を重ねてきた。梶浦と木戸は雌たちの口に酔いしれて気付いていない。
 マミの指は早苗の薬指に嵌められた指輪を優しく撫でていた。

END
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