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めす旦那 4

 時計は十一時を回っていた。窓の外から虫の鳴き声が聴こえてくる。
 明宏と早織は事務室でまかないの遅い夕食を取っていた。
「なぁ、逃げないか」
 ポツリと明宏が呟いた。今夜は一般客が一組しか泊まっておらず、他の従業員は全員帰っていた。
「急に何よ」
 早織は眉を潜めて、こちらを見てくる。
「いや、旅館とか、全部捨ててさ、遠い町に行くの」
「それで?」
「二人で仕事見つけて、働いて、子ども作って……いや、ごめん。バカな話だね」
「きっと疲れてるのよ。仮眠でも取ってくれば」
 早織は食器を片付け始めた。
 大事な人の後ろ姿を見ていると、この現実が辛くなってくる。
 さっきの言葉は無意識に出てきたものだ。言うつもりはなかった。しかし、口にしたことで急に現実感が出てくる。
 もし本当に逃げるならどうするべきだろうか。
 まずは金だ。口座には数十万円ほど残っている。それだけでは厳しい。どこかで借金でもするのか。
 旅館はどうなる。大崎は自分を探すに決まっている。逃げ切れるだろうか。
 ムリだ。あの男は自分のことを絶対に許すわけがない。早織も酷い目に合わされる。
「そろそろ髪切らないと」
 早織の独り言にはっと顔を上げた。
「あぁ、自分の髪のことよ」
 明宏の髪はもう耳を完全に覆い隠していた。

 
 数日後、大崎が旅館にやってきた。
 いつも夜は相手をさせられるが、なぜか呼び出しはなかった。
 本館からもみじの間の光が見える。嫌な予感がした。
 月明かりに照らされた庭園の中を静かに一歩ずつ歩いていく。
 三和土の立つと、障子の向こうから喘ぎ声が聴こえてくる。
 早織の声であった。
 全身の力が抜けて、その場に倒れそうになった。ついに恐れていたことが現実となった。
 見るつもりはない。それなのに身体が勝手に動いて、障子を少し開けた。
 大崎の背中が見える。丸出しの尻が激しく動いている。
 明宏の位置からは妻はよく見えない。左右に開いた足袋がぐらぐらと揺れていることだけが分かった。
 体位が変わった。早織が上になって、腰を振り始める。
 目を疑った。嫌々ではない、楽しんでいる?
 乱れた着物姿は驚くほどに似合っていた。
 いつも見ている早織ではない。まるで別人のようだ。
 もう何が起こっているのか理解できなかった。
 今度は正常位になり、大崎のねっとりとした腰使いに、早織は歓喜の声を上げる。
 ピストンが加速していく、大崎はまもなく射精する。
 だ、駄目だ。
 しかし、部屋に入っていく勇気はなかった。
 一物が引き抜かれる。当然ながらゴムはつけていない。
 早織の割れ目はぬらぬらと白く輝いている。
「そこにいるだろう」
 大崎が近づき、障子を開けた。明宏の目の前にさきほどまで妻の中に入っていた男根が突きつけられる。
 生々しい匂いが鼻をつく。見上げると大崎の勝ち誇った顔があった。
「あら、あなたいたの?」
「早織……これは一体どういう」
 言葉を出すのも辛く、目から涙が溢れてきた。感情がぐちゃぐちゃになっていた。
「ねえ、もう隠し通すのは面倒くさいから、全部話したら?」
 半裸の早織は大崎に抱きつき、その豊満な肉体をアピールするように押し付けた。
「そうだな。さて、どこから話すかな」
 大崎は早織の身体を押しのけると、その場に座り込んだ。
「おい、酒だ」
 早織は徳利とお猪口を持ってきた。
「お前の祖父である山垣秋貞は、ワシの父親だ」 
 頭を殴られたような衝撃が走った。本当なのか。
「つまり、ワシは叔父だ。お前の父とは腹違いの兄弟だった」
 大崎はお猪口をぐいと飲み干した。
「秋貞は旅芸者だったワシの母親を孕ませて、認知しなかった。はした金で追い返して、楯突こうものなら極道者を呼んで母を脅迫した」
 あの優しかった祖父にそんな一面があっただなんて。明宏にはにわかに信じられないことであった。
「そのときすでに縁談が決まっていたからな。認めたくなかったんだろう」
「ワシは母親一人に育てられた。貧乏だった。小さい頃から働いていたよ」
「母はいつもこの旅館への恨みを語っていた。ワシも自分を捨てた父親を憎んでいた。がむしゃらに働き、悪どいこともやった。母は死んだが、財を成したワシは復讐をすることに決めた」
 いつもの大崎とは違った。言葉の一つ一つに凄みが潜んでいた。そこに彼の歩んできた人生が込められているのだろう。
「復讐はやまがきの血を根絶やしにすることだ。跡取りであるお前を種無しにすれば、三百年の歴史はここで終わる」
 すべての謎が解けた。自分は子どもを作れないようにするために調教を受けたのだ。
「早織はもともと風俗で働いて、借金まみれになっていた女だ。ワシが拾って、ここに送り込んだ。なかなかの女優だろう」
「借金だけじゃなくて、身体のほうもずいぶんと開発されたわ。そうじゃなきゃ、こんなところこないわよ。久しぶりに楽しんでたのに、途中で邪魔してくれちゃって」
「さ、早織……」
「なに?女々しいわね。はっきり言ってほしいの?あんたじゃ満足できないって」
 早織は見せつけるように大崎と舌を絡め始めた。くちゅくちゅという音が耳にこびりついてくる。
「これでわかった?まぁ、もうあんたとは私だけじゃなくて、女とは一生セックスできない身体になったけどね」
「そ、それはどういう」
「実は早織に頼んで食事にホルモン剤を混ぜていた。もうお前の子種はほとんどカスみたいなものだ。最近、身体が変わっただろう」
「う、うそだ……」
 口では否定したが、たしかに身体は変化していた。肌は柔らかくなり、肉が付き始めていた。
 気の所為だと思っていた。だがもう認めざるえない。 
「だが安心しろ。いまここにたっぷりと注ぎ込んでやった」
 大崎は早織の陰毛の上の部分、ちょうど子宮の辺りをポンポンと叩いた。
「この旅館は今日から完全にワシのモノになる。変態御用達の旅館に生まれ変わるのだ」



 緩やかな坂道を登っていくと、木造の和風旅館が迎えてくれる。
 旅館の前にはたくさんの車が止まっていた。
 離れのもみじの間には数十人の男たちが集まっている。
「みなさん、ようこそいらっしゃいました」
 男たちの前で声を上げるのは大崎だ。
「三百年の伝統がある旅館やまがきは生まれ変わりました。性の好事家たちが集まる淫靡宿となるのです」
 やまがきで働いていた人間はすべてクビになり、いま新しい従業員が入っている。
 全員が風俗出身者であり、仲居仕事と客の性の相手を両方こなす。
 建物は純和風の装いを残しつつ、春画や男性器を模した彫刻などの性を連想させる物が飾られるようになった。
 部屋の備品として、縄、蝋燭、手錠、鞭などが置かれている。また、磔台やSMチェアの貸し出しも行っている。
「都会の喧騒から離れ、この静かな空間でどうぞ心ゆくまでお楽しみください」
 多くはSM愛好家である。大崎の知り合いもいれば、噂を聞きつけてやってきたものもいる。
「サービスといたしまして、調教したい人間を預かることもしております。男女は問いません」
 一人の男が手を挙げた。
「男も調教するのか」
「えぇ、その証拠をお見せしましょう」
 大崎が手を叩くと、明宏が部屋に入ってくる。
 結い上げられた髪、薄く化粧を施された顔、肩を露出する着物の着付け。明宏は完全な花魁となっていた。
「やまがきの明宏でございます。どうぞよろしくおねがいします」
 男たちからどよめきの声が湧く。
「ほほう、美しい」
「男なのか」
「これはたまりませんな」
「こいつは元々、代々続くこの旅館の跡取りでしたが、ワシの調教を受けまして、いまはこんな風になってしまったわけです。おいみなさまにお見せしろ」
 明宏は足元の裾を大きく広げる。そこには小さい種無しの茎がぶら下がっていた。
「はぁー、まるでクリトリスだな」
「あそこまで小さくなるのか」
「倒錯的で素晴らしい」
 好奇の視線に下半身がジワジワと熱くなってくる。
「ここにはかつて三百年を繋ぐ子種が入っていたわけですが、いまは空っぽです」
 大崎の冗談に男たちはゲラゲラと笑った。
「みなさんは普段、女性を相手にされていますが、今日は新しい扉を開いてみませんか?」
「うーん私はいけるかもしれないな」
「どんなにキレイでも男はムリだな」
「どれモノは試しですよ」
 男たちが明宏を取り囲む。
 むせ返る男の匂いとは対照的に明宏からは甘く重い雌の匂いを振りまいている。
 手を出してきたのは三人ほどで、あとは遠巻きに見ているだけであった。
 少し膨らんだ乳房を弄んだり、尻の感触を楽しんだり、股間を握られたりした。
 そのうちの一人がズボンを脱ぎ、ギンギンに硬くなった一物を突きつけてきた。
 明宏はそれを手に取り、口で愛し始めた。
 すぐに隣からもう一本出てくる。いつの間にか群がる男は増えていた。
 髭面の男が腰をぐいっと持ち上げ、尻穴にローションを塗りたくった。
「おぉ、こりゃ名器だ」
 感嘆の声を上げると、周囲の男たちの目の色が変わっていく。
 最初は気が乗らなかった者たちもパンツを脱いでいた。
 握っていた一物から精子が放たれた。明宏は反射的に口に咥えて、ずるずると吸い込んだ。
 まるでそれが夕立の一滴目のごとく、次々に男たちが射精していく。
 顔や肩、腹、股間、だけではなく、着物まで汚されていく。
 垂れた精液は畳の上の染みとなっていった。
 男たちの間に大崎の姿が見えた。恨みや怒りといった感情は明宏の中には不思議と起こらなかった。
 ある意味、これは運命なのかもしれない。
 やまがきの家に男子として生まれたときから決まっていた。
 栗の花の匂いの中で明宏の男の心はゆっくりと壊れていった。
 
END
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めす旦那 3

 唇が重なり合う。愛する人がいるという実感が熱を持って伝わってくる。
 柔らかい舌が明宏の中へと入り込んでくる。
「ごめん。ちょっと疲れてるみたいだ」
 唇が離れる。明宏は顔を伏せた。
 オレンジ色のライトに照らされている早織の肉体はとても魅力的だ。普段の和服姿からは想像できないような巨乳、そして腰回りの美しい曲線。
「そっか。仕方ないよね」
 秋が深まる時期の旅館やまがきは一年で最も忙しい。
 連日遅くまで働き疲れているのだが、明宏は勃たない原因は他のところにあるような気がしていた。
「ねえ口でしてあげようか?」
 そう言って顔を近づけてくる早織。つぶらな瞳の中で淡い光が揺れている。こんな申し出を断る男などいないはずだ。
「へ、変な事言うなよ。キミも疲れているだろう」
 明宏は早織と結婚するまで女性と付き合ったことがない。だから、世の女性が性に対してどれくらいの意識を持っているのかよく分かっていない。
 今どきはフェラチオくらいは平気で言うのかもしれないが、普段の妻からは想像ができないがゆえに驚いてしまう。
(オレで満足しているのかな) 
 先月のロブとの一夜を経験してから、自分のセックスに自信が持てなくなった。あの夜と比べれば子どもの遊びも同然だ。
 実際、早織は顔立ちも美人だし、体つきも整っている。他所の男がほっておくわけがない。
(いつ大崎が早織を襲うやもしれない。もしそうなったら……)
 明宏は頭に浮かんだ考えを振り払った。
「ねえ、明日は有名なお客さんが来るんでしょう」
「ああ、作家の三好由紀夫だね」
 数々の文学賞を受賞し、出版される本は常にベストセラーになる小説家だ。もちろん大崎に紹介された客である。
「私、本は全然読まないけど、うちも有名になったものよね」
「そうだね。あ、そういえば三好さんの本なら一冊持っているけど貸そうか?」
 明宏は読書好きであった。やまがきの主人になってからは本を読む暇はないが、学生やサラリーマン時代はよく読んでいた。
「いや、いいわ。字読んでいると眠くなるから……おやすみなさい」
「そっか、おやすみ」
 早織は癖なのか、明宏に背を向けて眠る。
 そういえば早織の趣味は何だろうか。まだ若いのにこんな山奥にいさせるのは可愛そうなことなのかもしれない。 
 静かな寝息が聞こえてきた。明宏はそっとベッドサイドのライトを消した。



 丸刈り頭の三好由紀夫は小説家というよりは体育教師のように見えた。
 大崎の同行はなかった。「あいつは苦手だ。とにかく接待しろ。何でも言うこと聞け」とだけ言っていた。
「いや、素晴らしい。実に素晴らしい」
 もみじの間に入ってからというもの三好は上機嫌であった。
 明宏は法被姿である。まだ昼であった。
「この空間には想像力を刺激されるよ。新しい作品の構想が練れそうだ」
 また変態がやってくると思ったが、三好は普通の人間に見えた。
「ありがとうございます」
「ところで浴場はもう入って良いのかな?」
「はい、お約束どおりに貸し切りにしております」
「よし。では君もきたまえ」
「それは一体どういう……」
「男同士、裸の付き合いといこうじゃないか。僕は君に興味がある。若いのにこの老舗旅館を任される男の気持ちを知りたいんだ」
 やまがきの湯にはかつての武将や剣豪が刀傷を癒やしたという昔話がある。
 そもそも地主だった山垣の祖先が温泉を掘り当てたところから、旅館の歴史が始まっている。
 浴場は何度か改装が行われ、現在は岩風呂となっている。山の景色が一望できるので客からの評判は良い。
 脱衣所で服を脱ぐ三好。均整の取れた鍛え上げられた肉体をしていた。洗面台の鏡に向かってボディビルダーのようなポーズを取っている。
 客と旅館の主人が一緒に風呂に入るなど聞いたことがないが、そう望むのならそうするしかない。
 明宏は服を脱いだ。最近、少し太ってきた。腹の周りにやや肉がついてきている。
 洗い場で身体を洗い、湯に入る。三好は肩まで浸かり「極楽だ」と呟いた。
「君の身体はずいぶんとだらしないじゃないか」
「はい、まぁ年齢的にも太りだす頃ですから」
「何を言ってる。僕も幼い頃は貧弱な体格をしていたが、トレーニングをすることでこの肉体を手に入れた」
 三好は腕を出して力こぶを作った。山のような膨らみがボンと出ている。
「肉体は実在であり、言語とは記号だ。その両輪が進むことで小説が生まれるのだ」
「はぁ……」
 ようやく作家らしいことを言ったが、明宏にはいまいち意味が分からなかった。
 三好は急に湯に潜った。深さはないので頭や尻が鮫の尾鰭のように出ている。そして、明宏の目の前で湯から顔を出した。
「ここは川だ。君は小魚だ。僕は鳥だ」
 いよいよ理解できない。
「鳥は空から急降下して小魚を食べる。これは僕にとっての小魚だ」
 また湯に潜ると、明宏の微竿を口に含んだ。唇でグニグニと動かしてくる。
 湯の中で三好の手が伸びてくる。明宏の股間をがっしりと掴み、その感触を楽しむように揉んでくる。
「あぁ、素晴らしい。男の身体は芸術だよ」
 湯から上がった三好は明宏を立ち上がらせた。三好の背丈は明宏よりも少し大きいくらいである。
 股間は湯気と共に高く登っている。その矛先を明宏の同じ場所に擦りつけてくる。
「僕の刀はどうだい」
 細い茎の周りを太い茸がぐるぐると回る。男同士でしかできない兜合わせ。お湯のせいもあって明宏の熱はどんどんと高まっていく。
「女のチンポという言葉は矛盾するように思えるが、いままさにここに存在している」
 包皮をめくられ敏感なそこに三好の硬い先端が重なり合う。指や舌よりも強い感触があった。
「あぁ」
 明宏は無意識に三好のほうに身体を寄せていた。硬い先端で玉袋の辺りを弄ばれる。
 唇が塞がれた。三好は濃厚に舌を絡めてくる。明宏はそれに答える。
 湯けむりの中で二人は互いの身体を味わっている。
 三好は右手で明宏の乳首を突き、左手で二本を合わせる。そして、扱き上げる。 
 三箇所責めに明宏は全身をくねくねと動かし、唇の合間からは熱い吐息が漏れる。
「い、いくぅ」
 微竿から精子が勢いよく飛び出し、湯の中へと沈んでいった。
 明宏は先に果ててしまい、相手の機嫌を損ねたと思った。しかし、三好は満足そうな顔で再びお湯に身体を沈めた。
「あ、あのすいません。さきに……」
「気にすることはない。この湯の中に君の何億という精子があると思うと、嬉しくなってくる。まさしく命の湯だよ」
 明宏は大崎が三好のことが苦手だと言ってた理由がなんとなく分かった気がした。



 グレーや黒の背広が視界を埋め尽くしていた。駅に着くとまた大量の人が乗り込んでくる。
 朝の通勤ラッシュ。明宏にとって久しぶりの満員電車である。
 乗客が男性ばかりだなと思っていたら、隣の車両が女性専用車両であった。
 数年前まで自分はこのサラリーマンの集団の中の一人であった。それがいまでは旅館の経営者もとい男娼まがいのことをさせられている。
 今日は大崎に指定された都内のホテルへと向かっている。そこである人物の相手をしろとの命令であった。
 目的の駅で降り、ホテルへと向かう。一等地にあるラグジュアリーホテルだ。
 フロントで名前を告げると、最上階のスイートに案内される。
「はじめまして。ようこそ」
 美魔女。そんな言葉がぴったりと似合う熟女であった。
 ベージュのスーツは豊満な身体を美しく演出している。
 明宏はこの人物を知っていた。真田由美子。ホテル業界の女王として有名だ。
 もともとは銀座のホステスだったが、資産家と結婚し玉の輿に乗る。夫に出資してもらいホテル経営に乗り出す。
 きめ細かいサービスと高級感の演出が話題を呼び、客室は連日予約で埋まっていた。
 いまいるホテルも由美子が経営するホテルであった。
「よろしくおねがいします」
 大崎のことだから男性相手にデリヘルまがいのことをさせられると思っていた。まさかこんな美人の相手をするなんて。
 早織のことが頭をよぎる。今までは男性相手だったので意識してなかったがこれは浮気ではないだろうか。
「大崎とは古い知り合いなの。手頃な相手がいないって相談したら、あなたを勧められたわ。色々と聞いてるわよ。若いのに大変ね」
 どれくらいのことを知っているのだろうか。由美子の表情からは読み取ることができない。
「じゃあ、裸になって。モタモタしないでね。私の時間は貴重なの。このあと会議だから早くして」
 服を脱いだ明宏を由美子は品定めするように眺めた。
「ふうん。大崎もやることがえげつないわね。女に見られる気分はどう?」
「どうって……よくわかりません」
「まだ自分の肉体の価値を分かってないのね。でも、だんだんと分かるようになるわ」
 由美子はジャケットを脱いだ。白いシャツのボタンを外す。紫色のブラジャーが覗く。
「そこの机に手をついて、お尻を見せない」
 主導権は完全に握られていた。明宏は命令されるがままに動く。
「約束どおり、浣腸で準備は済ませてるわよね」
「……はい」
「確かめさせてもらうわ」
 由美子の細い指が一本、穴の周りをなぞっていく。感覚は微細だが、これから起こることを否応無しに意識してしまう。
「へぇ、そこそこ使い込んでるわね。何人くらいの男に抱かれたの?」
「じ、十人ほど」
 もみじの間で大崎が紹介する変態に抱かれてきた。もう女よりも男とセックスした回数のほうが多い。
 ローションをつけられた指が穴の中にゆっくりと入っていく。
「なるほど。こういう締りね」
 指先が前立腺を刺激する。甘い鈍痛が腹に響いてくる。
「でも不思議だわ。大崎がなんであなたにそこまで入れ込むのか」
 ボーッとしていく頭に由美子の疑問が差し込まれる。
「そ、それは旅館の借金があるから」
「はした金でしょう。あの男は普段、億単位の金を動かしてるのよ」
 指が二本に増やされる。穴はなんなくそれを受け入れる。
「確かにあなたは可愛いけど、これくらいのレベルなら都会にはたくさんいるわ」
 直腸の中をぐりぐりと指が動く。太さはない分、感じるポイントを確実に攻めていく。
「本当に調教するなら自分の手元に置いとくはずよ。わざわざ山奥まで行くなんて時間が掛かるだけじゃない」
 ついに指が三本になる。
「昔から大崎を知っているけど、あれはどんなえげつないことでも平気でやる男よ」
 パシンという音が鳴った。由美子が明宏の尻を叩いたのだ。
「あはは。良い音ね。昔はよく私も叩かれたわ。男たちにね」
 指が引き抜かれる。そして目の前にスリッパのような形をした黒い平な物体をぶら下げられる。
「飴の時間は終わりよ」
「そ、それは」
「あら痛いのは初めて?怖がらなくてもいいわ。すぐに気持ちよくなるから」
 ブワっという空気が揺れる音がしたと思うと、尻に強烈な痛みが走った。
「ああぁ」
「これ別にあなたを喜ばせるためにやってるんじゃないの。ただのストレス解消だから。エクササイズの一種かしら」
 バシン。バシン。と音が鳴るたびに尻がどんどん赤くなっていく。
 由美子は軽く息を乱しながら、サディステックな喜びに浸っている。
「じゃあ、次はこれ」
 由美子が手に持っているのは一本鞭であった。ビュンビュンというしなる音が明宏の恐怖心を煽る。
 鋭い音と共に切り裂かれるような痛みが走った。さきほどの道具よりも集中的で何倍も痛い。
「そ、それはやめてください」
「あーら、あなたに口答えする権利はないの。まぁ、借り物だから程々にしてあげるけど」
 と言いながらも何発も鞭を打ち込んでくる。
 尻は全体的に赤くなり、その中に亀裂のように真っ赤な鞭の跡がついている。
 明宏は痛みのあまりに涙を流しだした。
「こんなものね。ふぅー、いい汗かいた」
 由美子はジョギングをし終わったあとのように爽快感あふれている。
「シャワーを浴びたら、私は帰るわ。この部屋は明日の朝までいていいわよ」
 尻からジンジンと響くような痛みが収まらない。
「ここに薬を置いておくわ。しばらくは座るのも辛いわよ。ふふふ、ごめんなさいね」
「いえ……」
「こうやって若い男をイジメるのって最悪だと思っていても辞められないのよね。若い頃に自分が散々、男に遊ばれたからかしら」
 そう呟く由美子の瞳にはどこか冷たさがあった。
「老婆心ながら忠告するけど、大崎とは早く縁を切るべきね」
「し、しかし、僕には旅館が……」
「どうせボロい旅館でしょ。下手すれば命を取られかねないわよ」

めす旦那 2

 旅館やまがきの入り口の横手には、事務室がある。狭い空間に机や棚が置かれている。
 明宏は予約客のデータをパソコンに入力していた。
 ほとんどが大崎が紹介した客である。
 不意にもみじの間の記憶が頭をかすめる。キーボードを打つ指が震える。
 異常だ。でも、大崎なしの経営はもはやありえない。
「坊っちゃん」
 顔を上げると、白い調理服の三枝が立っていた。やまがきの料理人である。
 祖父の代から働いている男でもう七十近い。昔の癖が抜けないのか、いまだに明宏のことを坊っちゃんと呼ぶ。
「なんですか?」
 三枝の顔は不機嫌そうである。明宏はその原因を知っていた。
「今日は特別なお客さんが来るようで」
「山原さんでしょう。大崎さんの紹介ですよ」
 芸術家、山原雄二。日本画、陶器、茶道などの様々な芸術に精通し、こと料理に関しては世界的な権威であった。
「まったく大崎の野郎……」
 小声で言ったつもりだろうが三枝の悪態は明宏の耳にしっかりと入っていた。
 従業員の大半は大崎のことを嫌っていた。最初はやまがきのピンチを救ったと歓迎していたが、経営に色々と口を出してくるので煙たがられている。
 明宏は板挟みの状態であった。
「料理がいらないっていうのは本当ですかい?」
 事前に大崎から食事はなしという連絡があった。要は無名の料理人が作ったものなど口にしたくないのだ。
「えぇ、まぁ今回は仕方ないですよ」
「まったく馬鹿にしやがって。こっちは五十年、包丁握ってんのに」
「三枝さんの腕では僕が一番分かってますから」
「皿だけはうちのものを使うんでしょう」
 もみじの間で使う食器類は他の部屋とは違う最高級のものを使っていた。大崎が山原はその皿が目当てだと言っていた。
「次来られた時は食べてもらうようにお願いしてみますよ。それといい加減坊っちゃんは辞めてくださいね」
「こりゃいけねえ。つい昔の癖で。若旦那でしたな」
 三枝はへへへと頭を掻きながら去っていった。


 その夜、大崎と山原が旅館にやってきた。
 本来、旅館の主人である明宏が出迎えるはずなのだが、大崎が「女将の早織だけで良い」と言ってきた。
「あの大崎さんがやたらとペコペコしてて、山原ってスゴイ人みたいね」
 早織が事務室に戻ってきた。大きくため息をついて、椅子に座った。
「おつかれさま」
 明宏はお茶を出した。
「なんだか気難しそうな人だったわ。あー疲れた。あ、大崎さんが九時になったら明宏が来るようにって言ってたわ」
「わ、わかった」
「美味しいもの食べるみたいよ」
「料理は出さないだろう」
「違うのよ。山原の付き人みたいな人がいて、クーラーボックスを何個も持ち込んでるの。たぶん自前で何か用意するんじゃないかしら」
「そうなのか」
「三枝さんには悪いけど、うちの料理で満足しそうにないもんね」
 九時になり、明宏はもみじの間に向かった。
 山原は白髪交じりの総髪で、紺色の和服に中羽織をしていた。付き人の若い坊主頭の男がいて、彼は佐々木といった。
 座卓の上にはいくつかの小鉢とお酒が並べられていた。
 もうすでに夕食が始まっているようだ。
「これがお話していた旅館の主人の山垣明宏です」
 山原の鋭い眼光に明宏は息が詰まりそうになる。
「よし、さっそく始めてもらおうか」
 今日は女物の着物は着なくていいと言われていた。そのため性的なことは何もしないと思っていたが、どうも違うようである。
「じゃあ裸になりたまえ」
 ここ数ヶ月、大崎に女装、口婬、肛門、乳首などの辱めを受けていた。
 だが、他人は初めてであった。いつもとは違う種類の躊躇が心に差し込まれる。とはいえ自分に拒否権はない。
 服を脱ぐと山原の視線はさらに鋭さを増した。
「ここに仰向けで寝ろ」
 大崎が指したのは座卓の上である。
 一体どういうことなのだと思いながらも従うほかはない。
「佐々木、盛り付けろ」
 隅に座っていた佐々木は立ち上がり、濡れた布巾で明宏の胸や腹を丁寧に拭いた。そしてクーラーボックスから刺身が盛り付けられている大皿を取り出した。
 もみじの間の皿とは、自分のことだったのか。
 佐々木は刺し身を明宏の身体に載せていく。胸のあたりに鮪などの魚が円状に並べられ、腹には白身魚が置かれた。
 屈辱を感じるべきなのかすら分からないくらいの異様な状況であった。
 まず山原の箸は刺し身ではなく、明宏の乳首に向けられた。円を描くように乳輪をなぞっていく。
 醤油皿のように乳首の上に赤身を撫で付けた。
 冷たい舌先で舐められているような感触だった。
「ふふ、この味だ」
 山原は赤身を口に運び、ゆっくりと咀嚼した。
「魚の油と皮膚の油が混ざり合って実に上手い。大崎も食え」
「はい、では私は左のほうを使わさせていただきます」
 同じ要領で乳首を箸で突き、刺し身を頬張る大崎。「うまい」と腹の底から上げるような声を漏らす。
 それを繰り返していくうちに、乳首が固くなり始める。刺し身を挟む箸の先が触れるたびに電流のような痺れが走った。
 大崎の調教によって乳首の感度は最初とは比べ物にならないくらい上がっていた。明宏は時おり自分に乳房があるのではないかと錯覚するほどに感じることがあった。
 上が刺激されると、下も熱を持ち始める。微竿がゆっくりと持ち上がっていき、包皮から亀頭が僅かばかりに顔を出す。
「さすが若いな。次は白身だ」
 山原がそう言うと、佐々木が立ち上がり、明宏の脚を掴んだ。そして腹の白身が溢れないようにゆっくりと動かし、M字開脚の状態にした。
 佐々木は明宏の会陰を指先で探り、強い力で押し込んできた。
「大崎、よく見ておけ。これが前立腺を外から刺激する会陰マッサージだ」
「これがそうなんですか」
 明宏の会陰は膣のごとく指を受け入れる。
「前立腺の位置は人によって微妙に違うからな。しかし、この佐々木はピタリと当てる」
「ほほう、勉強させてもらいます」
 これまで生きてきた中で意識もしてなかった場所が強引に引きずり出されているような感覚だ。
 体内に重い響きが鳴り響く。
 性器は上を向き、その先端からはチョロチョロと蜜を流し始めた。
「透明醤油だ」
 山原は刺し身を明宏の先端にこすり付け、食べた。
「うん。いい味を出しておる。大崎も食べろ。この汁はいつも飲んでいるだろうがな」
「はは、山原さんにはかないませんな」
 大崎は下品な笑い声を出し、同じように食べた。
 亀頭の先からピリピリとした痺れが伝わってくる。敏感な部分を何かの生き物に責められているようだった。
「これはなかなかいい皿だ。掘り出し物を見つけたな」
「へ、ありがとうございます」
「どうだ。私に譲らないか」
 明宏は耳を疑った。
「そ、それはどうかご勘弁を」
「ほほう。何かこの皿に入れ込む理由がありそうだな」
「いや、まぁ」
 言いよどむ大崎。明宏はこれまで大崎が単なる変態だからという理由で自分への仕打ちを片付けてきたが、何か他に理由があるのだろか。
「まぁよい。この旅館に来れば皿を使えると思えばいい。おい、佐々木」
 佐々木はゴム手袋をはめると、明宏の穴の周辺にローションを塗りだした。
 まずは一本の指が入ってくる。何かを探るように動き、すぐさま二本目が入ってくる。
 明宏は不意の衝撃に身体を揺らし、刺し身を何切れが落とした。
 ところが佐々木は指を止めない。ついに三本目が入る。
 体内でゆっくりと何かが動き出す。それはだんだんと早くなり、熱を帯びる。
「山原様、もうまもなくでございます」
 佐々木は小皿を性器の前に置き、指を大きく動かした。すると、先端から精液のようなものがぼとぼとと溢れだした。
「白濁醤油だ。おい、大崎の分も絞れ」
 すべてを出し終えたときには全身から力抜け、横になっていることすら辛くなっていた。
「皿を下げろ」
 佐々木は明宏を起き上がらせると、肩を担いでもみじの間から出ていった。
「すいませんが服はご自分で着てください。私はすぐに戻らなければいけませんので」
 佐々木はそう言って障子を閉めた。明宏はしばらく裸のまま呆然としていた。 
 


 翌週、大崎は新しい客を連れてきた。
「ワオ、ジャパニーズビューティフォーシシー」
 熊を思わせる体格をした外国人、ロブ。短く刈り込まれた茶髪に顎と鼻下にはびっしりと髭が蓄えられている。その背丈は百八十は軽く越えており、明宏が出会った中で一番大きい男であった。
「じゃあ、あとは二人っきりで。ワシは本館のほうに泊まる」
「オォー、ミスターオオサキ、アリガトゴザマス」
「ハハ、エンジョーイロブ」
 明宏は落ち着いた薄紫の着物に紅葉柄の帯を閉めている。
 もみじの間に残されたのは、ワイシャツ姿の大男と女着物の小男。
 とても同性には見えない。
 徳利と小鉢が載せた盆を運ぶ。ロブはニコニコしながらその様子を眺めている。
 大崎の顔は広いと知っていたが、まさか外国人までいるとは。
 明宏は徳利を差し出し、何と言うべきか悩んだ。英語はまったく話せない。
 とりあえず笑顔で「おひとつどうぞ」と言ってみた。大崎に「女の仕草はまず愛想から」と教えられていた。
「アリガトゴザマス。サケ、ダイスキ」
 日本酒を注ぐとロブは一気に煽った。
「オオー、ジャパニーズミニサイズネー」
 毛むくじゃらの巨大な手に握られたお猪口はいつもより小さく見える。
 ロブは器用に箸を使い、あっという間に小鉢を平らげ、徳利をどんどん空けていった。
 拙い日本語で自分のことについて話しだした。貿易会社で働いていて、色々な国を飛び回っている。
「ライネンデサンジュッサイニナリマス。ミソジデース」
「えぇ、じゃあいま二十九歳なんですか」
 明宏は驚いた。てっきり一回りは上だと思っていたが、二つしか変わらない。
「ハハ、ボクカラスレバアナタハティーンエイジャー二ミエルヨ」
 日本人は幼く見えることがあると聞いたことがあるが、目の前の男と自分を比べると確かに納得である。
「イロイロナクニノシーメールミテマスガ、ニホンガイチバン。アナタ、カワイイ」
 明宏は顔が赤くなるのを感じた。可愛いと褒められたのは初めてであった。
 大崎にしても、先週の山原にしても、自分を欲望を満たす道具にしか見ていない。
 自分の女としての価値を意識してしまい、すぐに頭から振り払う。何を馬鹿なことを考えているのだ。
 空いた皿を片付けようとしたとき、ロブが明宏の腕を掴み、そのまま押し倒してきた。
 岩が伸し掛かってきたように重く、日本人にはない特有の体臭にむせ返りそうになる。
 外国映画で見るような貪るような激しいキスをされた。明宏はただされるがままである。
「グットガール」
 ロブは服を脱いだ。毛むくじゃらの肉体が現れる。下半身には巨大なディックがぶら下がっていた。
 明宏は思わず生唾を飲み込んだ。やはりこれまで見た中で一番大きい。
「ヌギナサイ」
 言われるがままに着物を脱ぐ。ところが、ロブは途中で「ストップ」と言った。
「オイランスタイル、ダイスキ」
 赤い襦袢に白い足袋だけは着ておけという意味なのだろう。
 襦袢の間から明宏の微竿が覗いている。下着はつけていなかった。ロブのと比べると、大きさは二周りほど違う。
「ジャパニーズマイクロサイズネ」
 ロブは太い指先で微竿を突いた。じわじわと甘い感覚が広がる。
 指はそのままお尻に回ってくる。穴の周りを撫で始める。
「マッサージ、リラックス」
 指は中には入ってきてない。穴やその周辺をゆっくりと解していっている。
 生い茂った茶色の胸毛に顔を埋めながら、明宏は男らしさに酔いそうになっていた。
「scuk」
 自らの股間を指差し、短い英語を喋った。単語の意味は知らないが、望んでいることは分かる。
 間近で見るロブのコックはその迫力を一層増した。これまでに嗅いだことのない匂いが鼻につく。
 口技は大崎に仕込まれている。しかし、これほど巨大なモノだとどこから舐めればいいか見当がつかない。
 まずは舌先で根本から責める。びっしりとした茶色の陰毛に鼻をうずめ、舌を丁寧に動かしていく。
「oh...goodgirl」
 口に咥えるだけで顎が外れそうになる。亀頭をマッサージするように唇を動かす。
 だらんと伸びていたコックに徐々に芯が入り始める。
 ロブはローションを取り出し、明宏の尻穴に塗り始めた。その間もフェラチオは続けている。
 ぐいぐいと喉奥に入ってくるコックのせいで息苦しくなってきた。
 たまらずに口を外す。もう少しで窒息するところであった。
 座卓の上に抑えつけられ、尻にコックを当てられる。
 だが感触を楽しむだけですぐには挿れなかった。まずは指が一本入ってくる。
 先週の佐々木とは違う太い指だ。すぐさま二本、三本と増えていき、中を解すように動いていく。
 肛門性交には相当手慣れている様子だ。
 黒光りする天板が明宏の吐息が白く曇る。
 ぐいっと亀頭の先が入り込む。
 メリメリという音が出るんじゃないかというほど広がっていく。
 太さだけじゃなく、長さも凄い。いつも大崎に責められているところを軽々と越え、S状結腸までたどり着く。
「はぁ、はあああ」
 触ったことすらない、意識したことすらないところに男性器が侵入している。
 ロブはゆっくりと腰を動かし始めた。明宏のところからは彼の顔は見えない。獣のような息遣いと穴が蹂躙される感覚だけが全てだった。
 突然、身体が宙に浮いた。
 視界にもみじの間が飛び込んでくる。
 俗に駅弁というわれる体位である。脚を広げられ、より一層深くコックが突き刺さる。
 ロブの逞しい腕にとってみれば明宏の体重などは子ども同然である。
 うなじに激しい息遣いが伝わってくる。全身が地震のように揺れている。
 柱のところまで歩き、降ろされたかと思うと、次は立ちバックが始まった。
 呼吸すらままならないほど激しさだ。
「あ、あ、あああ、ん」
 一度コックが抜かれる。明宏はたまらずにその場に崩れ落ちた。しかし、すぐさま挿れられる。今度は正常位。
 完全に繋がったあとに再び持ち上げられる。明宏は反射的にロブの首に腕を回す。
「bitch」
 耳元でそう囁かれ、また激しいキスを受ける。
「ohhh!」
 ロブの動きは激しさの頂点で止まり、精子をどくどくと放出した。明宏は体内にその熱をしっかりと感じた。
 コックが引き抜かれると、どぷどぷと精液が漏れ出し、畳の上に染み込んでいく。
「キモチヨカッタ、ナイスプッシー」
 生き絶え絶えの明宏をロブは抱きしめ優しくキスをしてきた。
「ん…んん」
 明宏は何も考えずにその唇に答えた。
 自分が男であるという自覚を吹き飛ばすような夜であった。

めす旦那 1

 緩やかな坂道を登っていくと、木造の和風旅館が迎えてくれる。 
 山間に佇む旅館やまがき。創業三百年の老舗である。
 二階建て、部屋数は十室。多少の増改築はされているが、基本的には創業当時と同じ造りとなっている。そのため訪れる客は江戸時代にタイムスリップしたような気分を味わえる。
 宴会場や娯楽室といったものはない。静かな宿である。
 二階建ての本館の裏手には庭園があり、その奥には離れの客室「もみじの間」があった。
 旅館の主人、山垣明宏はそのもみじの間へと続く飛石の一つに立っていた。まだ二十八歳の青年である。
 虫の声が静かに響いている。夜中である。もみじの間から漏れる光以外は何も見えない。
 明宏がもみじの間に始めて入ったのは六歳の頃だった。
 祖父の山垣秋貞に手を引かれ、三和土に入った。老人特有の硬く冷たい手の感触は今でも覚えている。
 障子を開けると、二十畳の畳部屋の向こう側に美しい山々が広がっていた。
「この景色は領主のお殿様も気に入っておられたのだ」
 秋貞は部屋にある掛け軸や調度品がどれだけ貴重な物なのかを語り出した。幼い明宏は話の内容をほとんど理解できなかったが、いかにここが大事な空間であるかは肌で感じ取った。
「いいかここは誰でも泊めて言い訳じゃない。どんなに金を積んでも、品格のない人間には空気すらもったいない」
 秋貞はいつも藍色の和服を着ていた。細身の身体によく似合っていた。明宏にとってテレビの特撮ヒーローよりも格好いい存在であった。
「お前が主人になった暁には、この部屋を守っていかなくてはいけない。ここには三百年の歴史があるんだ」
 明宏の胸に誇らしい感情が芽生えた。まだ子どもながらにこの旅館を継ぎ、祖父のように取り仕切っていく未来を想像した。 
 やがて祖父は死に、旅館は両親が経営することになった。明宏は両親の勧めもあって、大学に入り一般企業に就職した。
 いずれ旅館を継ぐだろうが、それはもっと先の話だと思っていた。ところが三年前、両親が相次いで亡くなり、跡取りである明宏が呼び戻された。
 東京でサラリーマンをしていた彼にとってはまったくの異業種であり、元々芳しくなかった経営状態は悪化する一方であった。
 三和土には茶色の革靴があった。明宏はその隣で草履を脱いだ。
「失礼します」
 昔話に出てくる大きな狸みたいな男が部屋の中央に座っていた。
 大崎健三。いくつかの会社や飲食店を経営している五十過ぎの恰幅の良い男性である。
「お待たせいたしました」
 三指をつき、深々と頭を下げる。
「着付けが早くなったな」
 分厚い唇を尖らせて、下品な笑みを浮かべる。
 薄い桜色の着物に、露芝柄の名古屋帯を締めていた。帯締めと帯留めは同じ濃い桃色。化粧を施しているが、髪はそのままである。
 明宏は女の和服を着ていた。大崎の命令である。
「ほれお酌をせんか」
 言われるがままに徳利を持ち、お猪口に酒を注ぐ。大崎の舐め回すような視線にゾッと寒気がしてくる。
 大崎は一気に酒を煽るともう一杯と言わんばかりにお猪口を突き出し、同時に空いた手で明宏の尻を触り始めた。
 徳利の先が僅かに震える。
 無骨な掌は尻の感触を楽しみながら、中心の異物をグリグリと押し込んでくる。
「あぁ……」
 明宏は悩ましげな声を漏らし、酒を零した。
「まったくしょうがないヤツだ。酒がもったいない。舐めろ」
 机の上に点々と広がる酒の水滴を一つ一つ舌で、舐め取っていく。大崎はその様子を見ながら美味そうに酒を煽る。
 絶対に逆らってはいけない。大崎の機嫌を損ねたら、旅館はすぐさま人の手に渡ってしまう。
「よしそのまま座卓の上に乗っかれ、そして挿れているモノを見せろ」
 黒い唐木の座卓。脚の部分には美しい模様が掘られている。かつて祖父がこの座卓は国宝級の職人が作ったものだと話していた。
 その上で悍ましいほどの痴態を晒そうとしている。
 明宏は四つん這いになり、着物を広げ、お尻を丸出しにした。当然ながら下着は身につけていない。
 きゅっと盛り上がった白尻の中央に黒い蓋があった。アナルプラグである。
「そこで糞をひねり出すみたいに出せ」
 辱めに震えながら、尻に力を入れる。ところが力加減が上手くいかずに、蓋は締まったままである。
「ほらどうした。助けてやろうか」
 その言葉とは裏腹に大崎はアナルプラグをグリグリと中に押さえてくる。直腸が波打つ感触がはっきりと伝わり、全身の力が抜けてしまう。
「あぁ、どうかお許しください」
 慈悲を乞う言葉に大崎が耳を貸すことはないと分かっているのに、明宏は口には出さずにいられなかった。
「引っ張ってやろうか」
 蓋を掴み、引いたと思ったら、また押し込み。それを繰り返す。穴は広がり狭まる。口から漏れる息も乱れていく。
「あぁ、ああ」
 掴める場所などない平らな座卓の上に指を食い込ましながら、明宏は排泄調教に耐えようとした。
 何かの拍子にプラグがぐぐっと下がり、一番太い部分が穴の辺りまで降りてきた。すでに充分に解されているので痛みはない。
「ん、んん」
 少し力を入れるとボトリと落ちた。ローションのカスが残ったアナルプラグがゴロゴロと転がる。
 穴が大きく広がり、大崎の目の前に腸肉の満月が現れた。
「まだまだ今晩はたっぷりイジメてやるからな」
 


 
 毎朝、仏壇の前で手を合わせるのが明宏の日課であった。
 線香の煙が上がっていく。明宏を見下ろすように、鴨居にはやまがきの歴代の主人たちの写真が並べられている。
 両親の写真は仏壇の前に置いてある。明宏にとってはどこか遠い存在であった。
 旅館の仕事ばかりで、家族旅行はおろか、まともに遊んでもらったことすらない。子守をしてくれたのはいつも祖父であった。
 祖母は明宏が生まれる前に亡くなったと聞かされていた。なぜか写真は置いてなかった。
「朝ごはん、できたよ」
 茶の間のほうから妻の早織の声がした。
 食卓には旅館の朝食で出す料理が並べられていた。材料を余らすと勿体ないので、時折こうして彼らが食べることになる。
「二人でご飯食べるの久しぶりだね」
「あぁ、そうだね」
 早織は二年前にやまがきにふらりとやってきた。まだ若いが何か訳ありという雰囲気があった。それでも美人で器量もよく、人手不足もあって住み込みで働くことになった。
 若い二人が男女の仲になるまでにそれほどの時間は掛からなかった。去年、ささやかな結婚式を挙げ、早織はやまがきの女将となった。
「あなた髪伸びたわね」
「え、まあね。最近は忙しいから」
「ホントよね。私も切りに行きたいけど、最寄りの美容室まで車で一時間は掛かるもんね」
 大崎に髪は伸ばすようにと命令されている。まだ長髪とはいえないが、耳を半分ほど覆い隠すほどには伸びている。
「でも忙しいってのもいいもんよね。一時期はお客さんが全然入らなかったけど、いまは大崎さんのおかげでなんとかなっているもん」
 卵焼きをつまんだ箸が一瞬止まった。早織は明宏が大崎に受けている仕打ちを知らない。
 朝食を済ませ、車でやまがきへと向かう。夫婦の自宅は両親から譲り受けたもので、旅館から少し離れた場所にある。
 明宏は朝の山道を運転するのが好きだった。普通の人から見ればただ木々が生い茂る狭い道だろうが、そこには色々な思い出があった。
 祖父が虫取りや薬草を教えてくれたり、川で魚捕りを見せてくれたこともある。
 ハンドルを握りながら、そんな過去の楽しかった記憶に思いを馳せるのだ。
 従業員用の駐車場に車を止める。本館の横手にあって、雑木林を切り開いて作られた空間である。
「じゃあわたし着替えてくるから」
 女将仕事をするときは当然ながら和服に着替えないといけない。
 明宏は早織の後ろ姿を見送ると、その向こう側にあるもみじの間が視線に入ってくる。整えられた草垣の向こうに瓦の屋根が見える。
 夏は終わりに近づいているが、蝉の声がまだ元気に響いている。
 今年が始まったとき、明宏は旅館の経営は夏まで持たないと思っていた。
 やまがきには先々代、つまり祖父の秋貞が残した借金があった。明宏自身はその存在すら知らなかった。
 借金を放棄することもできた。しかし、それは資産である旅館やまがきを手放すことでもあった。
 三百年の伝統を自分の代で途絶えることは絶対に許されない。明宏は旅館の立て直しに走り回った。
 様々なPRを打ち出すも全て失敗。客足は減る一方。いよいよというところに大崎がやってきた。
 最初は宿泊客であった。大崎はやまがきが好きだといい、自分には社長や有名人の知り合いが多いから彼らにこの旅館を紹介したいと申し出てきた。
 明宏にとってはまさに救世主であった。実際に大崎の紹介で客は増えて、やまがきはなんとか持ち直すことができた。
 また借金に関しても大崎が一括して請け負うと言ってきた。
 あまりに出来すぎた話なのだが、世間知らずの明宏は助かったという思いで書類に判を押した。
 車から出ると、熱が籠もった風が頬を撫でた。山奥でも夏場は暑い。
 本館に入る前にもみじの間に寄ってみた。
 大崎が泊めてほしいと言ってきたのは三ヶ月ほど前だ。
「いやー素晴らしい部屋だ」
 夕食を食べながら大崎はもみじの間を褒めちぎっていた。こういうとき普通は女将が客の相手にするのだが、なぜか大崎は明宏をそばに置きたがった。
「ところで旅館の経営はどうかな?」
「はいおかげさまで。大崎さんのおかげでなんとかやっております」
「じゃあ、そろそろ跡取りなんて考えないといけないころじゃないのか。奥さんも寂しがっているだろう」
 大崎は箸の先で川魚の身をボロボロとほぐし出した。締まった白身が皿の上に積まれる。
「えぇ、まぁ」
 明宏はこの手の話題が苦手だった。もともと性に対しては淡白な方であった。
「手酌じゃ味気ないな」
「はい、いま早織を呼びます」
「いや、キミが注いでくれ」
 瓶ビールを手に取ったとき、そこに被せるように大崎の手が伸びてきた。そして手の甲の感触を楽しむように撫で始めた。
「あ、あの、これは」
 男の明宏にとって大崎の手付きは理解の外にあることだった。手を引っ込めたいが、まるで神経が途切れたように動かない。
「ワシはこの歳になるまで独身だ。つまりどういうことかわかるな」
 耳元でそう囁かれると、全身に鳥肌が立った。
「し、しかし、僕は男ですよ」 
 必死に頭を回転させても絞り出せたのはなんとも頼りない言葉であった。
「男だからいいんじゃないか。世の中には男を愛でる男が山のようにいるんだよ、キミ。それに……」
 大崎は明宏をぐいと引き寄せた。その距離感は明らかに男女のモノであった。
「ワシの機嫌を損ねたら、この旅館は潰れるぞ」
 女でさえ屈辱に震えるような場面に、明宏はただ狼狽えるしかなかった。
 分かりやすいほどの脅迫である。差し出すのは自分の身体だ。
「まずは裸になってもらおうか」
 明宏は法被にワイシャツ、スラックスといういかにも若旦那の格好である。
「自分が女になったつもりで脱ぐんだぞ」
 そうは言われても、自分は男だという意識は簡単には変えられない。もたもたしていると大崎の「早くしろ」という怒鳴り声が飛んだ。
 明宏はオロオロと法被を脱ぎ、シャツのボタンを一つ一つ外していく。指先が震えていることに気づいた。
 内股になってくねくねと腰を動かしズボンを下ろした。恥ずかしさで目眩がしそうだ。
「ほほう」
 大崎のため息が漏れる。明宏にとってみれば訳が分からなかった。男の身体を見て興奮するなんて。
「毛が薄いな。いいぞ。ちんぽのサイズは平均よりもやや下ってところか。尻穴を見せろ。もっと腰を突き出せ、自分で穴を広げろ」
 全身の血が一気に熱くなった。言われるがままに指で左右に広げる。大崎の視線が肌を焼くようである。
「これからは女物の着物でワシの接待をしろ。この部屋に二人でいるときは人を絶対に近づけさせるな」
 現実感が伴わないまま話はどんどんと進んでいく。大崎の鼻息が尻に掛かるのをはっきりと感じ、気味悪さで足腰の力が抜けていくようだ。
「お前を女にするための調教はじっくりと始める。手始めに今日はシャブッてもらおうか」
 シャブルということ言葉だけが明宏の頭の中で独り歩きする。
 大崎はベルトを外しチャックを下ろすと、自らの男性自身を取り出した。
 顔は離れているのに雄臭い匂いが鼻をつく。生命力を感じる濃い陰毛の下に茶色の虎が潜んでいる。
(これを舐めるのか……)
「どうした。早くしろ」
 同性の性器を咥えるという充分なほど屈辱的な行為を、この部屋でするだなんて。
 もみじの間はやまがきにとって伝統を支える大黒柱。明宏は自らその歴史を汚そうとしていることが信じられなかった。
「お前ができないなら。嫁を呼んでこい。ワシは男女両方いけるからの」
 大崎という人間がとんでもない悪魔に思えてきた。明宏は早織には絶対にこんなことをさせたくなかった。
 ゆっくりと大崎の股間に顔を埋める。舌先で軽く舐めただけで、吐き気がこみ上げてくる。
「こりゃおぼこい。調教のしがいがあるわ。ほら、もっと奥まで咥えるんだ」
 頭を抑えつけられ、無理やりに喉奥まで肉棒が入ってくる。
「いいか絶対に歯は立てるな。唇で思いっきり吸い込め。そうだ。そのまま前後に動いてみろ」
 もはや大崎の言われるがままにするだけであった。何も考えられない。いや、何かを考えればこんなことはできなくなる。
 いつの間にか目から涙が溢れていた。それでも大崎は止めようとしない。
「口を離せ。今度はアイスキャンディーを舐めるみたいにペロペロしろ」
 舌先から苦味や酸味が伝わってくる。嘔吐感を我慢するのはすでに限界に近づいていた。
「ワシを見ろ。こういうときは上目遣いで男を見るんだ。ほほ、泣いているのか、初いやつよ」
 地獄の口虐は延々と続くような気がした。だが、大崎は途中で自らの扱き出した。
「今日はまだ勘弁してやる。口だけで男をイカせるようにならないといけないぞ」
 手を激しく上下に動かしながら、その銃口は明宏を捉えていた。何が起こるかは充分すぎるほどに分かっている。
「おら、口を開けろ。もっと大きく!!」
 大崎の怒鳴り声に萎縮し、口を目一杯大きく開けた。
「おぉぉ!!」
 獣の唸り声と共に大量の精子が口内に放たれた。味わう余裕などはなく、ただ無心で嚥下するしかなかった。
「飲み込んだか。この味をしっかりと覚えておけよ」
 舌先に残る苦味。鼻の奥から栗の花の匂いが登ってくる。
 明宏の人生が決定的に分岐した夜であった。