FC2ブログ

女役列車

 進藤マサシは七時三分発の電車に乗る。
 ホームに立つ場所も決まっていて、前から三番目の車両に乗り込む。
 やはりその日も同じ場所に立っていた。
 目の前には缶ビールの広告看板があって、今人気の若手女優が微笑んでいる。
 朝日が降り注ぎ、心地よい風が通り抜けていくが、ラッシュ時特有のピリついた空気が漂っている。
 お決まりのアナウンスと共に電車がやってくる。ドアが開く。いつも通り混雑している。
 ぐいぐいと身体を押し込むように乗車し、つり革を掴む。
 カバンは前で抱きかかえている。痴漢に間違われないようにするためこうやって両手を塞いでいるのだ。
 マサシは目だけを動かして、辺りの乗客を確認する。
 眠そうにするサラリーマン、不機嫌そうな女子高生、イヤホンから音漏れしている若者、しきりに貧乏揺すりをする老人、スマホを眺めるOL。
 なるべく女性からは距離を取るようにしたいが、次の駅でまた大勢の人間が乗り込んできて、身動きすら取れなくなった。
 だがこの駅から快速になり、降りる駅まで一回も止まらない。つまりこれ以上混雑することはない。
 不意に尻の辺りに感触が走った。
 最初は偶然だろうと思っていたが、どうにも様子がおかしい。
 困惑するマサシを嘲笑うかのように、強い圧迫感が走った。
 掌でさわさわと触られている。
(ち、痴漢!?)
 頭はパニックに陥り、ぎゅっと身体を強張らせた。
 手はマサシの反応を敏感に感じ取り、尻たぶを優しく撫で始めた。
 お前の身体など全てお見通しだぞと言わんばかりに。
 電車がカーブに差し掛かった。手はその勢いを利用して、マサシのカバンと身体の間に入り込んだ。
(やめて……)
 せめてもの抵抗としてカバンを抱きかかえる力を強くしたが、手はまったく攻撃を緩めない。
 ジャケット越しに腹を撫で回し、鼻歌のようにベルトをトントンと指先で叩く。
 マサシの心の中でやめてくれ、やめてくれと願った。
 だがそんな祈りなどおかまいなしに、ズボンのチャックがゆっくりと降ろされていく。
(だ、だめ)
 開いたチャックへと侵入した手は一瞬その動きを止めた。
 マサシはレディースショーツを履いていた。いわゆる下着女装だ。
 あきらかに男性下着ではない感触に手は戸惑っている。動いていくうちに指がリボンの部分に触れた。
 そのリボンを指でグリグリとなぞり始めた。手は事情を理解したのだ。
 耳元に荒い鼻息が掛かった。
 そして、下半身を力強く押し付けられる。
 ズボン越しに硬くなった男根の感触が伝わってくる。
 満員電車の中で顔も知らぬ男性に欲情されている。
 そんな非日常的な出来事にマサシは異様な興奮を覚えてきた。
 いけないことだと分かっていても、伝わってくる男性器の硬さが、脳みそをふやけさせていく。
 手はショーツごとマサシの茎を握ると、マッサージするように揉み始めた。
 思わず腰を引くと、勃起した男根が押し返してくる。
 朝ということもあってマサシもすぐに熱が高まった状態になる。
 手はその力を着実に強くしていく。
 表情を保つのが難しくなってきた。マサシはまた目だけを動かして辺りを伺う。
 誰もこちらには気がつていない。
 この車両の中で自分の秘密を知っているのは後ろの男だけ。共犯になったような気分であった。
(うぅ、も、もう駄目だ)
 マサシの反応をいち早く察知したのか手の動きが止まった。
 筒の中にこみ上げていた熱がしゅるしゅると萎んでいった。
 一瞬、射精してもいいと思った、自分を恥じた。こんなところで出してしまったら騒ぎになる。
 手が次に移ったのはショーツのレース部分である。指先を左右に揺らして、弄んでいる。
 マサシにはそれが「男のくせにこんなの穿いているのか」というメッセージのように思えてきた。
 再び手は茎に触る。今度はさきほどよりも上下の動きが強い。たまらず周りから隠すようにカバンを下げた。
 一度は冷静になった頭も、また高まってくる熱によって、狂わされていく。
 だが、手はまたしても最後まで導かず、そうしたやり取りを何度も繰り返した。
 焦らしに焦らされマサシの頭は完全に射精のことだけになっていた。
 周囲の乗客のことや後始末や会社のことなど入る隙間はなくなっていた。
 アナウンスが次に止まる駅名を告げた。同時に手が逃げていった。
 沸騰寸前の頭に冷水が被せられたように、マサシは急に現実に戻ってきた。
 後ろを振り返ろうとしたとき、電車が止まり、降りていく乗客に流され、外へと放り出された。



 マサシが帰宅したのは夜九時過ぎであった。
 一人暮らし。部屋の間取りは1DKである。
 蛇口を捻り、浴槽に湯を溜める。じょぼじょぼという水の音を聞いていると、今朝の出来事が思い出される。
 スーツを脱ぎ、下着だけの姿になる。ピンク色のレディースショーツ。
 他人に初めて自分の女装を知られた。こんな衝撃的な出来事が何の前触れもなく突然起きるだなんて。
 お湯にラベンダーの香りのする入浴剤を入れる。一日のリラックスタイムのはずがどうしても落ち着けない。
 今日はずっとそんな感じで、普段は真面目な分、上司や同僚に心配されるほどであった。
 忘れようとしても磁石のように記憶が頭から離れようとしない。
 お風呂から上がりパジャマに着替える。ドット柄のワンピースである。
 裾から伸びる脚は無駄毛は一本も生えていなかった。
 冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、愛らしいファンシーなキャラクターがプリントされたコップに水を注ぐ。
 美容のためこまめ水分補給を心がけている。
 ソファに腰を落ち着け、何気なくテレビをつける。しかし、あの手の感触が鮮明に蘇ってくる。
 もぞもぞとお尻を動かす。もしあのまま射精していたらどうなったんだろうか。
 マサシは女装が趣味であった。化粧や服だけではなく、家具や小物、日常の消耗品などを全て女性用で揃えている。
 だが、女装で外出したりすることはなかった。マサシにとって女装は恥ずかしいものであった。
 誰に教えられたわけではないが、大の男がスカートを穿いたり口紅を塗ることを心底イケナイことだと思っていた。
 それはほとんど脅迫的な観念といっても良かった。
 しかし、じゃあ女装を辞めるかというと、それも無理な話であった。
 幼い頃から胸に抱いていた願望は熟成に熟成を重ね、心の中に根を下ろしていた。
 罪悪感を覚えながらもフェミニンな空間を充実させることでなんとか折り合いをつけようとしていた。
 それが今日、土足で上がりこまれた。
 内股になって、横に置いてあったクマのぬいぐるみを抱きかかえる。
 今の自分はウィッグもメイクもしていない。男のままの姿でレディースのパジャマを着ているだけ。
 客観的に見れば相当に滑稽な姿だ。
 だが、それでもマサシは目を瞑れば、女の子になれるような気がしていた。

 翌日。
 迷ったが、下着は引き出しの奥にあるメンズトランクスにした。
 七時三分。いつもどおりの電車に乗り込む。
 また何か起こるかもしれない。
 期待しているのか、不安なのか。よくわからない感情が胸の辺りで漂っている。
 ところが、手はやってこなかった。
 電車から降りたとき、なにか物足りなさを感じ、やっぱり自分は痴漢を望んでいたことに気づいた。
(あれは行きずりだったのか)
 駅を出ると後ろから声を掛けられた。
「あんちゃん、ちょっといいかい」
 五十手前くらいの日に焼けた男性が立っていた。髪は白髪交じりでボサボサで、顔には深い皺が刻まれている。
 しかし、体格は逞しく、肉体労働者のように見えた。
 見覚えはなかったが、直感で分かった。あの手だ。
 肉でパンパンに膨れたような太い指。
「その顔、分かってるんだろう。ちょっとそこの公園で話そうや?」
 始業時間までにはまだ余裕がある。マサシは男の後についていった。
 ビルとビルに挟まれた小さな公園。朝の時間帯ということもあって誰もいなかった。
 男はショウゾウと名乗った。ひび割れた唇の間に見える歯は何本か抜けていた。
「へへへ、今日もパンティーかい」
「いえ、その、ちがいます」
「恥ずかしがることねえよ。あんちゃんも好きものなんだろう」
 使い込まれた大工道具のような手がマサシの膝に乗せられた。
 会社の近くだ。知り合いに見られてでもしたらと不安になってくる。
「あんちゃん、女装子か?」
 じょそこという言葉は字面ではよく見ているのに、実際に声となって聞くと不思議な響きがあった。
「はい、まぁ」
「下着だけ?」
「いえ、服も化粧も……」
「こういうのは」
 膝に置かれた手が尻へと移り、ゆっくりと撫でてくる。
 嫌いです。辞めてください。
 と、きっぱり言えばいいものの、ただもじもじと顔を赤らめるだけであった。
「はっきり言わないと」
「すすいません。こういうのはあまり経験がなくて」
「ほーう。じゃあ、ちょっと試してみいひんか?」
「え?」
 ショウゾウは住んでいるアパートを教えれくれた。女装道具一式を持って、部屋で着替えろ。そしたら女のオメコしてやると言った。
「でも、会社が」
「どうせ一日くらい休んでもええやろう」
 ほな、といってショウゾウは帰っていた。
 欠勤などこれまでしたこともない。多少体調が悪くても無理して出社してきた。だったら今日くらい……。
 会社に休む旨を電話した。不審がられることもなく、お大事にと言われた。
 開放感が胸にこみ上げてくるが、あの男の家に行くべきかはまだ決めかねていた。
 自宅に戻り、大きめのバッグに女装道具を詰め始めた。まだ大丈夫。いざとなれば途中で帰ればいい。
 プライドを取り繕うような言い訳を必死に考えながら、ショウゾウのところに向かった。
 アパートは駅から歩いて十五分ほどのところにあった。
 マサシが生まれるずっと前に建てられたような古さだ。
 急な階段を登ると足元がグラグラと揺れた。手すりの鉄の錆びた匂いが鼻につく。
 インターホンはなかった。ノックをすると、ショウゾウがドアから顔を出した。
「へへ、入んなよ」
 狭い玄関には靴がびっしりと置かれていて、その横にはすぐ台所があった。キッチンと呼べる空間は限りなく狭い。
 奥にある六畳の居間は生活で溢れていた。
 ちゃぶ台を中心に、エロ雑誌、カップラーメン、布団、ティッシュ、ペットボトル、紙袋などなどが溢れている。
 足の踏み場もないくらいで、ショウゾウはそれらを乱暴に寄せて、スペースを作り、マサシを案内した。
 ブラウン管のテレビには朝のワイドショーが映っている。
「狭いところだけどゆっくりしてくれ」
 すえたような匂いが鼻をつく。まるで昭和の時代にタイムスリップしたようである。
「俺、酒買ってくるから。その間着替えておくれよ」
 といってショウゾウは部屋を出ていった。
 一人取り残されたマサシ。
 いつもならば会社でデスクに向かっているのに、どうしてこんなところにいるのか。
 このまま帰ろうか。よく考えれば平日の朝から男に痴漢する人間なんて関わっちゃいけない。
 それなのに。
 マサシはバッグからメイク道具と服を取り出した。
 朝のワイドショーは終わり、通販番組が始まった。
「ただいま〜」
 コンビニ袋を携えたショウゾウが帰ってきた。すでに手には缶チューハイが握られていた。ロングサイズ、アルコール度数9%である。
「お!こりゃ、べっぴんさんだぁ」
 少し顔が赤くなったショウゾウは感嘆の声を漏らした。
 毛先がカールした茶色のロングウィッグ、化粧はやや濃い目、花柄のドレス、黒いスカートからはストッキングが伸びている。
 場末のスナックにいそうな格好であった。マサシは水商売の女性が着るようなファッションが好きであった。
 もっとも彼自身がそういうお店に行ったことは一度もない。 
「ほれ、あんたの分」
 渡されたのは桃の缶チューハイであった。 
 隣に腰を下ろすショウゾウ。その距離感はあきらかに男女のものであった。
「かんぱーい」
 昼間から酒なんてと思いながら、マサシはとりあえず一口飲んだ。わざとらしい果物の味が舌の上に広がる。
「あんたどこらへんで遊んでんの?」
「ぼ……わたしはあんまり外出とかしなくて」
「へぇ。これだけキレかったら、どこいってもモテモテやけどなぁ」
 と言ってショウゾウの手が尻を撫でてくる。振り払うべきなのか分からずにただ身体を固くするしかできなかった。
「そんな緊張せんでも。もっと飲まんと」
 ショウゾウはもう一本空けたらしく、新しいチューハイを飲みだした。マサシも素面ではいられないのでペースを早める。
 人工的な甘味とアルコールがどんどん身体を火照らせていく。
「あの、朝はいつも痴漢しているんですか?」
「あぁ、そうや。まぁ、ワシの趣味みたいなもんやな」
 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、嫌らしい笑みを浮かべた。
「普通の女でも声上げにくいのに、ましてや男やったら絶対に何も言ってこおへんやろう」
 その通りであった。マサシも周囲の目を気にして逃げることができなかった。
「若くてスーツ着て、さぁ仕事バリバリやるぞみたいなあんちゃんを辱めると胸がスーッとするんや」
 その口ぶりには単なる性欲だけではない、世の中に対する恨みのようなものが込められていた。
「何百本というちんぽを触ってきたから、どう責めたらいいかはワシ熟知しとんねん。だから偉そうな若造も思いのままや」
 手が太ももの辺りにゆっくりと移ってくる。
「そやけど、昨日は驚きやったで。下着女装さんを痴漢したのは初めてやからな」
 スカートの中に手が入ってく。マサシは思わず生唾を飲み込んだ。
「ワシは女装さんも好きやからな。あんたもズボンで触られるよりもこっちのほうが興奮するやろう」
 手はパンスト越しにねちっこく竿を揉んでくる。
 硬さを帯び始めると、ショウゾウはそれを肴のようにして美味そうに缶チューハイを煽った。
「あん……ん」
 唇から漏れる吐息は意識せずとも艷やかだった。
 ぐいっとスカートを上げられ、下半身は丸出しになる。パンストに包まれた下着の奥には硬くなった微竿が顔を出している。
 ショウゾウは脱がすことなくそのまま微竿を咥えだした。裏筋を舌先でトントンと叩かれるたびに快楽の電流が走る。
 マサシは過去に女性と付き合ったことがあり、セックスも経験済みだ。
 ただ、フェラチオをされたのは初めての経験であった。
「へへ、うまいよ」
 口を離したショウゾウは唾液をたっぷりと含んだナイロン生地を指でグリグリと押し込んでくる。
「う、うん、ん」
「気持ちいいやろう。今度はおっぱいや」
 襟の部分を引っ張られ、胸元を露出させられる。
 当然平らなわけであるが、ショウゾウはそこに胸があるように触り始める。
「女役するならここで感じられたほうがええで」
 乳輪を太い指先でなぞられると、全身が総毛立つような感覚がした。
 爪が乳首を弾く。ビビッと電流が走り抜ける。
「ああん」
 オナニーをするときに乳首を弄ることはあったが、何も感じられなかった。
 それが人に触れるだけでこんなにも気持ちいいだなんて驚きであった。
 自分の身体がどんどん変化していくようである。
「おっぱい吸わさせてもらうで」
 ジュルジュルという音を立てながら、乳首を吸い上げられる。
 僅かな痛みと粘つくような愉悦が胸元を支配する。
 マサシは女性がブラジャーする理由が分かったような気がした。
「今度は下を直接触ってやる」
 敷きっぱなしの煎餅布団に倒され、パンストをずり降ろされる。
 微竿にショウゾウの荒い鼻息が直接当たってくる。
 赤黒い舌を伸ばすとすぐには舐めずに、見せつけるようにゆっくりと近づけてくる。
「へ、へへ、へへ」
 痙攣した鳴き声を出しながら、舌が竿に触れる。
 焦らされたことによって感度は何倍も鋭くなっており、わずか一舐めで腰が砕けそうになってしまう。
 そのままぱくっと咥えられ、ズボズボと吸い込まれる。
 さきほどの繊細な舌使いとは一転した責めに思わず内股になってしまう。
 ショウゾウはその内股を邪魔だと言わんばかりに強い力でぐいっと広げる。
 玉が舌の上でコロコロと転がされる。薄い鈍痛が腹に響き、その上に甘い快楽が流れていく。
 マサシの眉頭は恍惚の表し、口元からはされるがままの喘ぎ声を漏らし続けた。
「イクときはちゃんと言うんだぞ。わたし、イッちゃうってな」
 頃合いを見計らったようにショウゾウはそう命令した。
 すでにマサシの下半身は爆発寸前であった。
 そんな端ない言葉をと戸惑う男の自分をかき消すように乱れて熱に浮かされた女の自分が喉を動かす。
「イク、あ、あたしイッちゃう」
 大量の白濁液がショウゾウの口内に放出された。
 完全に出し切ったあと、残った汁を味わうようにちゅっちゅと吸い込んだ。
 敏感になった亀頭には強すぎる刺激であった。
 思わずショウゾウの白髪交じりの頭を抱きかかえた。
 茫然自失のまま煎餅布団に倒れる。汚い天井の真ん中でくすんだ蛍光灯が揺れていた。
 突然、自分はとんでもないことをしてしまったと後悔が全身を縛り付ける。
 ショウゾウは精液を押し込むように缶チューハイをぐびぐびとやっていた。
「あ、あの帰ります」
 といって服を直し、鞄を掴むと、ショウゾウの顔を見ぬまま、アパートを出ていった。
 慌てていたので自分が女装していることをすっかりと忘れていた。
 ウィッグもボサボサで、相当に酷い格好をしている。道行く人が何人も振り返った。
 近くの公園の公衆トイレに入り、着替えることにした。
 いつも部屋の中にいる女の自分が、トイレの鏡に映っていた。
 罪悪感が胸が潰れそうになった。
 個室に入り、声を押し殺して泣いた。


 差し込む朝日を遮るように、七時十分発の電車がホームにやってくる。
 車両中央まで流されるように移動していく、つり革を掴み、発車に備える。
 両隣が女性であることに気がついた。
 マサシは用心のために両手でつり革を持つことにした。
 腕を上げるとブラジャーが位置がズレた。マサシはさり気なく胸周りを触り、元の位置に戻した。
 女装は辞めることができなかった。
 あれからショウゾウとは会ってないが、一度覚えてしまった快楽は手放すことができそうにない。
 まもなく電車が出発する。
スポンサーサイト
[PR]

ドS男の娘、身の程を知る

 地下道にゴロゴロとキャスターの転がる音が響いている。
 女性は階段を降りながら、バッグの中にあるスマホを指先で確認した。夜のこの時間帯は人通りが少ない。
 前から歩いてきたのは小柄な男性であった。大きなキャリーケースを引いている。童顔で大人しそうな顔をしていた。
 あれなら襲いかかってきても大丈夫そうだ。女性は安心した。
 二人は何事もなくすれ違い、男性はキャリーケースを重そうに抱えながら階段を登っていった。
「はぁ」
 ため息が出たのは荷物が重いからではなく、さきほどの女性のせいだ。
(最近背の高い女が増えたよな)
 ヒールを履いているわけでもないのに、自分よりも10cmは大きかった。ああいう女性とすれ違うたびに胸がチクリと痛む。
 ツバサは身長が158cmしかなかった。男なのに女性の平均身長と同じである。
 背が低いと不便である。
 服のサイズがないので何を着ても不格好になる。音楽ライブなどで前に背の高い人間が立ったらまったく見えなくなる。電車によってはつり革を掴むのに精一杯。
 そしてなにより女性にモテない。たしかに背の低い男が好きな人もいる。しかし、そういうタイプは母性本能が強く、何かと世話を焼いて子供扱いしてくる。
 プライドの高いツバサにとってみれば屈辱でしかなかった。
 地下道を上がり、少し歩くと、目的のビジネスホテルに到着した。
「予約していた大道ツバサですけど」
 フロントは若い女性であった。幸いにして背の高さは同じだ。
「はい、ツインルームのご予約ですね。こちらがキーです」
「あとから知り合いがきます」
「かしこまりました。あちらがエレベーターでございます」 
 部屋はツインのベッドにテーブルとソファというシンプルなものであった。
 ほっと一息ついて、キャリーケースから今日の衣装を取り出す。
 ブラウンのゴスロリワンピース。ミルフィールのような模様のレースがあしらわれたデザインで、見ているだけで口の中が甘ったるくなる。
 レディースのMサイズである。ツバサにとってはピッタリであった。
 チビ男の唯一のメリットは女装だ。
 メンズの服は選べないが、レディースの服は選び放題。ツバサは女装を始めてから、ファッションの楽しさを知った。
 キッカケは学生時代の女友達である。無理やりに女装させられ街に連れ出されたときに、不思議といつもビクビクしている気分から開放されたのだ。そして男たちにナンパされるようになるとそれが自信となった。
 化粧を覚え、服を揃え、一気に女装にハマった。
 ゴスロリワンピースを着ると、メイクの時間だ。テーマは西洋人形である。目元を綺麗に縁取り、唇を赤く彩る。青のカラコンを付け、ゴールドのウィッグをかぶる。
 鏡の前に魅力的な少女が現れた。スマホでパシャリと自撮りをする。
 ツバサの女装はロリータファッションであったり、アニメや漫画のキャラクターのコスプレが多かった。服を着るだけではなく、メイクも完璧に仕上げる。二次元的な可愛さの追求がツバサのテーマであった。
(やっぱボクってカワイイよな)
 毎月大量の化粧品を買い込むので、安月給のツバサはいつも金欠である。
 今日ホテルにやってきたのは活動資金づくりのためであった。
 自撮りした写真をSNSにアップする。フォロワー千人、界隈ではちょっとした有名人。
 これからM男イジメまーす。どんな風にいたぶってやろうかな。と可愛い写真とは真逆の文章を打ち込む。
 すぐさまお気に入りや返信が飛んでくる。男の娘に虐められたがっているM男は意外と多い。
 ツバサはこうしたSMごっこをしてお小遣いを稼いでいる。M役はメッセージを送ってくるフォロワーの中から選ぶが、ホテル代以外の金は貰わない。
 イジメている様子を動画や画像で上げて、それを見たフォロワーがネット経由でお金や商品を送ってくるシステムだ。 
 もっとも目的はお金だけではなく背が低いコンプレックスを晴らす意味もある。どちらかというと憂さ晴らしの方が強い。
 そろそろ約束の時間だ。稀に当日すっぽかされることもあるので油断ならない。
 ベルが鳴った。のぞき穴を確認すると、三十代くらいの男性が立っていた。
 ドアを開けて顔を出すと、シャツのボタンが目に入った。顔を上げ、思わず息を飲んだ。
 しっかりとした目鼻立ち、ポロシャツにジーンズというラフな格好に箔をつける逞しい体格、そしてその身長は180cmは確実に越えていた。
「ナガタです。今日はよろしくおねがいします」
「よ、よろしく」
(愛想のないやつだな)
 体格差に圧倒されていたツバサだが、素っ気ない挨拶に腹が立った。これまでのM男たちはみんな目を輝かせて自分を観ていたのに、ずっと無表情のままだ。
(顔立ちは整っているけど、こんな無愛想じゃ女にはモテナイだろうな)
 ツバサは一枚の紙をナガタに渡した。
「これ読んでサインして。あなただけじゃなくてプレイする人には皆そうしてもらっているから」
 紙には今日やることはすべてプレイであり、合意の上に行われる旨が書かれていた。ネットでどれだけやり取りをしても初対面の相手である。ツバサなりのリスクマネージメントだ。
「なるほど。ホテル代はいま払いましょうか」
「そうね。おねがい」
 ナガタは財布から万札を抜いた。分厚い財布であった。よく見ると腕時計も高そうなものを付けている。
(うっ、すげ金持ち。どんな仕事してるんだ)
 ツバサのS心がメラメラと燃え上がってくる。今日の相手は歯ごたえがありそうだ。
「じゃあ、さっそく始めましょうか」
 とツバサが言ってもナガタは棒立ちのままである。
「もしかしてこういうの初めて?」
「ええ、まぁ」
(全然雰囲気出さねえな)
 ツバサは正座を指示した。これから屈服させようとする相手の目線が自分よりも上にあるのは色々と都合が悪い。
「そこから土下座してみてよ」
 ナガタは何の躊躇もなく頭を下げた。
(もうちょっと屈辱とか敗北感を感じろよ。今日は最初からハードめで責めてやる)
「ねぇ〜頭ふみつけられてる気分はど〜う?」
 大男を跪かせていると思うとゾクゾクしてくる。
「おら!どうなんだよ!!」
 横腹を思いっきり蹴るが、逆にこちらの足に激痛が走った。
 ナガタの肉体は岩のよう硬かった。
「男に蹴られて喜んでるとか、あんた変態だね。バーカ、死ねよ」
 もう一発蹴りを入れたいのだが、あまりの痛さに言葉で甚振ることにした。
「てめぇ、いつまで服を着てるんだよ。奴隷なんだから裸になれよ」
 責める方が服を着て、責められる方は裸になる。
 立場を分からせるのに有効な方法であった。
 ところがナガタの鍛え上げられた男らしい逆三角形の肉体にはまるで通用しなかった。ツバサは返って自分の貧相な身体が情けなくなった。
(くっそ。ボクだって鍛えりゃ筋肉はつくんだ。ただ背が低いのにマッチョだと似合わないからやらないだけだ)
 下半身はボクサーブリーフ越しにでも充分するぎるほどに分かるほど巨根を携えていた。
(スゲ。今まで見た中で一番でかい)
 スカートの奥に忍んでいる自分の性器とは比べ物にならなかった。
「パンツはそのままにしておけ。てめぇのきたねえものは見たくねえからな」
 ツバサはナガタの股間に手を伸ばした。その重さがずしりと伝わってくる。
(シコシコして、適当なところで止めて、また虐めてやろう)
「ほらほら男の掌で気持ちよくなれよ。ホモキモやろうが」
 本当はフェラチオをさせるつもりだったが、ナガタのイチモツがあまりに大きいので、自分のものを出すのが恥ずかしくなっていた。
「どうせ女に相手にされないから男の娘に走ったんだろう。負け犬!」
 ナガタはまるでお面を被っているように一向に表情が変わらない。
(なんだよこいつ。他のM男たちはすぐに情けない顔を見せるっていうのに) 
「気持ちいいだろう。それともこのまま握りつぶしやてやろうか」 
 雄の塊を握っていると、だんだんと変な気分になってきた。
(こいつを帰らせたら、持ってきたディルドでアナニーをしよう)
 腕の筋肉が痺れてきた。射精するどころか、勃起する気配すらない。
 ツバサは手コキにはそれなりに自信があった。女性向けの手コキ解説サイトを調べて勉強したのだ。たいていのM男は十分もすればイッてしまうのに、ナガタはかなりの遅漏だ。
 早漏のツバサは苛ついた。風俗で童貞を卒業しようとしたときに、パンツの中で擦れたことで射精したことがあった。そのときの風俗嬢のバカにした顔がトラウマとなり、その手のお店には行けなくなった。
 性欲処理はもっぱらオナニーで済ませている。女装を始めてからは乳首やアナルの楽しみを覚えた。最もそれは絶対に秘密であった。
 恋愛対象はあくまで女性。M男イジメを一方的に虐めるのは良いが、男から求められるのは心底嫌なのだ。
「っち、もうやめだ。やめ。飽きた。あんたとっと帰ってよ」
 主導権はこちらにある。無理やりにイカせることもこだわらなくても良い。
 ナガタは無言のまま立ち上がった。分厚い胸筋がツバサの視界を塞ぐ。
「な、なんだよ。どけよ。じゃまなんだよ」
「この程度か」
「なに」
「最初にこれは合意の上のプレイだって言ったよな」
「そ、それがなんだよ」
「今から逆にしてみないか」
 ツバサはナガタの言っている意味が分からなかった。
「俺もSNSをやっていてな。説明するのが手間だから、とりあえず見てくれ」
 手渡されたスマホには、無様であられもない姿の女性たちがいた。手首を縄に縛られ激しく突かれている女、喉奥に男性器を突っ込まれ苦しげに呻く女、乳首をギュッと抓られ吐息を漏らす女、尻を叩かれ喜びの鳴き声を上げる女、そんな淫らな生き物の画像や動画がTL上を埋め尽くしていた。
 フォロワーは一万人を越えていた。
「女を雌に変えるのが趣味でね。調教した女は二桁を越えるかな。単純なセックスだけなら三桁はいくね」
 ツバサはスマホから目が離せないでいる。まるでAVの世界であったが、相手の男はいま目の前にいるナガタだ。
「最近マンネリ気味だから違ったことをしようと、捨て垢でお前に連絡してみたんだ。たまには責められる側に回るのも悪くないと思ったが、俺には性が合わない」
「えぇっと」
 檻越しに見ていた獣が突然目の前に現れたようにツバサの身体は固まってしまった。
「いいだろ」
 短い言葉と共にツバサの華奢な肩に大きな手がドシンと置かれた。たったそれだけのことなのに震えが止まらない。
「……はい」
 いつの間にか了承する言葉が口からこぼれ落ちていた。 
「じゃあ俺に命令したことをやってもらおうか。服はそのままだ。野郎の裸なんて見ても楽しくないからな」
 カーペットに膝を付き、手を置き、頭を下げる。生まれて初めての土下座であった。
 当然何も見えない。その暗さが余計に恐怖心を煽る。
(このあと何をされるんだ。まさか自分がやったことが仕返しされるのか)
 さっきナガタの横腹を蹴ったことを文字通り死ぬほどに後悔した。
 足が動いたと思って身体を強張らせる。ところが蹴りの衝撃は来ずに、背中にズシリとした重さが伝わってくる。
「ちょうどいい足置きだ。女にくらべると少し硬い気もするがな」
 長く張りのある脹脛が浮き上がった背骨をゴリゴリと擦る。ロリータ男の娘は足置きに成り下がってしまった。
(コイツ、ふざけやがって)
 恐怖心は長くは続かなかった。ツバサは見えないように苛立ちを込めて拳を握り込んだ。
 背中から足が外され、ナガタは「舐めろ」と短く言い放った。
 跪いたままのツバサの眼の前に、巨大な足が突きつけられた。硬い肉厚の趾が五本、甲には幾本もの血管が浮き走っている。
 恐る恐ると口を近づける。男臭い汗の匂いがプンと鼻孔を擽る。最初は親指を舐めた。爪の硬い感触と指紋のザラつきが舌に伝わってくる。そこから楽器を吹くように指を一本一本移動していく。
 不意に吐き気がこみ上げてきた。必死に飲み込み、舌を動かし続ける。身体が拒絶反応を起こしている、やはり自分が奉仕するのは性に合ってない。
(ボクはお前の奴隷になんかならないよ)
 屈辱的なプレイを要求されても心さえ折れなければ自分の勝ちである。表向きは素直に従って、この男を騙せばいい。
 趾が口から抜かれ、足裏で顔面を覆うように押さえつけられた。その力はだんだんと強くなり、鼻に鈍い痛みが走る。
「姑息だな」
 すべてお見通しだぞと言わんばかりの口調であった。足裏が顔面をグリグリと押し潰し、そのままツバサの髪を弾き飛ばした。
 ウィッグが外れた女装者ほど滑稽なものはない。慌てて拾いに行こうとするところをナガタが後ろから羽交い締めにした。
「俺の命令なしに勝手に動くな」
 太く逞しい腕が喉を押さえつけ、そのまま軽々と持ち上げる。ツバサの足は床から離れ、全体重が首の一点に掛かる。
 口をパクパクと動かし、必死に息を吸おうとする。ナガタの腕を叩いて解放してもらおうとするが、まったく緩める気配がない。
 身体中から力が抜けていき、視界が白くボヤケていく。独特の浮遊感に襲われ始め、堅苦しい重力が遠のいていった。
「これは首輪だ」
 その言葉と共に腕が外され、ツバサは崩れ落ちる。
 顔が涙でグチャグチャになって、コンタクトが剥がれた。
「今の感触。気持ちよかったろう」
 酸素を吸うのに必死で答えることが出来ない。
 苦しかったが、何か言いようのない感覚は確かに感じていた。
「首絞めプレイっていうのは、見えない首輪をつけることだ。おまけに取り外すことができない」
 解放されたはずなのに、首元に残る感触が急にくっきりと強くなってくる。
「誰かと喋るとき、飯を食うとき、歩いているとき、生活の色々なところで、突然いまの感覚を思い出す。そして、身体が欲するようになる」
 腹に響く低い声は催眠術のようにツバサの頭に刻み込まれていく。このままいけば自分が自分でなくなる。そんな恐怖心が背後に回り込んだ。
 ナガタはツバサの襟首を掴み、思いっきり引っ張り上げ、ビリビリと破り始めた。必死に抵抗するも体格差を考えればまったくの無駄であった。
 ウィッグはなく、化粧は溶け落ちている。身ぐるみを剥がされ、みっともない下着女装者の姿を晒す。
「これだけあればいいだろう」
 破られたワンピースの上に万札三枚が降ってきた。充分にお釣りのくる金額だ。しかし、手を出す気にはなれなかった。こんな理不尽なことをあっていいのか。
「どうした足りないか」
 ナガタは分厚い財布からもう二枚万札を放り投げた。
 それでもじっとしていると、急に顎を捕まれ、ナガタが顔を近づけてきた。
「言うことを聞かないヤツはキライなんだよ。殴られたいのか?」
 痛みへの怯えが一気に全身を支配し、慌てて万札に手を伸ばした。掌の中で札がくしゃくしゃになり、福沢諭吉が笑っているように見えた。
「ストリッパーみたいにチップをもらったら、パンツの紐で押さえつけるんだよ」
 言われるがままに平らな腰回りに札を通していく。まるで商売女じゃないか。ツバサは地獄の底に堕とされたような気がした。
 だが、本当の地獄はこれからであった。
「そんなちっさいパンツに隠れるってことはお前のアソコは相当小さいんだな。ちょっと見せてみろ」
 拒む意思はすっかりと消え去っていた。ツバサはパンティーをずらし、恐怖心で縮こまった微竿を空気に浸した。
「ははは、パイパンで包茎とはガキのチンポみてえだな。しかし臭そうだな、ちゃんと剥いて洗ってんのか?」
「あ、洗ってます、ご、ごめんなさい」
 あまりの情けなさにまた涙が出てきた。
「お前泣いてんのか。調教始めの女にはよくあることだ。感情がぐちゃぐちゃになって自分でも訳わからなくなるんだ」
 ナガタは指先でツバサの微竿を摘み上げた。
「こんなメダカみたいなサイズじゃ女装に走るのもムリないな。お前、童貞か?」
「そそうです」
 涙で視界がぼやけていき、その低い声だけが頭に響いてくる。
「飼っている女を一匹充てがってやろうかと思ったが、この粗末なモノじゃ女が可愛そうだ。それにお前は男のほうが好きなんだよな。だから女の格好をしてるんだろう」
 一言一言が楔のように打ち込まれていく。違うと否定したいが、改めて突きつけられると、そうではないかと思ってしまう自分がいた。
「オナニーしてもらおうか。どうせいつもケツ穴を使ってるんだろう」
 ナガタは断りもなしに勝手にキャリーケースを漁ると、中からアナニー用のディルドを取り出した。
「おいおいマジかよ。こんなもの挿れて遊んでんのか」
 半笑いのナガタはベッドにディルドを放り投げた。Lサイズでアナニー上級者向けのサイズだ。
 いつもM男をたっぷりイジメて、帰らせたあとでアナニーに耽っていた。そのため自宅でアナル洗浄は済ませている。
 涙を拭い、ディルドにローションを塗りたくる。手が震えていることに気づく。何に怯えているのか。従っている間は殴られることはない。
「こっちを見ろ」
 ナガタは短く命令した。ツバサの視線がナガタの目に吸い寄せられていく。
「オナニーするにはオカズがいるだろう」  
 ナガタはパンツを下ろした。そこには巨大な一物が鎮座していた。
「触れて良いのは女だけだからな。お前は見るだけだ」
 使い込まれた色をした亀頭に大勢の雌たちが屈服してきた。それに比べて自分のモノはあまりに無垢であった。
 ピンと下半身に一本の筋が入った。
(え、なんで硬くなってるんだ)
 理解できない反応。この状況のどこに興奮する要素があるのだ。徹底的に見下げられ、面白半分に踏みつけられ、プライドはズタズタになっているというのに。
「いっちょまえに立ってるな」
 意に反してこの状況に興奮していることが相手に知られてしまった。固く心の奥底にしまい込み、高い城壁で守っていたものが破られた。
 屈辱に愉悦を感じている。
 絶対的な格差に、圧倒的な勝てなさに、強制的な敗北に、身が震えるほどの悦びが湧き上がってくる。
 緩みきった後穴に黒ゴムのディルドが侵入してくる。ゾゾッと恥骨が震え、ジワリと快楽が広がる。最初こそ窮屈なものの、次第に馴染んでいき、軽々とディルドを咥えこんでいく。
「へぇ、アナル好きのM女はたくさん見てきたが、お前が一番好きものだな。まぁ穴が一つしかないから仕方ないか」
 ナガタの言葉は鞭であった。波打つようにしなり、心に打ち付けられる。痛みはオセロのように快感へとひっくり返る。
 偽物の玩具ではなく、本物の性器で支配されたい。一度火がついた欲望は、どれだけ抑えようとしても無駄で、激しく燃え上がった。
「メスの顔になったな」
 相手は男丸出しの格好であるが、ナガタはその変化を見逃さなかった。女の小さな反応を読み取る力に長けていたからこそ、彼は百戦錬磨の雄なのだ。
 椅子から立ち上がり、ツバサの顔の前に巨大魔羅を突きつける。尻穴に入っているディルドより一回りは太い。
 鼻先に迫る禍々しい亀頭からツバサは目が離せなかった。小便の匂いすら芳しい香りとなっていた。
「欲しいか」
「ほしいです」
 白い微竿の先から濡れ細った真珠が顔を出した。包皮に溜まっていた愛蜜がドボドボとシーツに落ちていく。 
 ナガタはツバサの尻から生えたディルドを乱暴に引き抜くと、パックリと開いた穴に手を置いた。
 大きく無骨な掌の感触だけで、ツバサは強烈なエクスタシーに貫かれた。これまで心の奥底に鍵を掛けて仕舞い込んでいたマゾの本性がついに開かれたのだ。
「特別にお前を女として認めよう」
 神の啓示にも等しい言葉と共に、鋼の肉棒がねじ込まれる。穴は歓喜を持って安々と広がり咥え込み離すまいと締め付ける。
 側臥位の状態でツバサは処女を破られた。前立腺が圧迫され、蜜と小便が混ざったような液体が微竿から溢れていく。
 繋がった状態のまま足首を捕まれ、ぐいっと開脚させられる。蝶の羽のように広がった足の間で微竿が揺れていた。
「あ、あ、あん、あ、は」
 恥ずかしげもなく声を漏らす半開きの口にナガタが唇を重ねてきた。ツバサにとってのファーストキスであった。
 男とキスしているなんて、数十分前の自分ならば嫌悪感に気絶してしまうところだが、いまはその悦びに酔いしれていた。舌を絡め合わせ、唇を貪り合う。
(キスってこんなに気持ちいいの)
 上と下で両方同時に女として愛される幸福を知り、手と足は自然に自分を犯す男に抱きついていた。
 ツバサの身体は思考も理性も届かないところにたどり着いてしまった。
 肉棒を引き抜くと、ナガタはツバサの腿裏を掴み、その身体をひっくり返した。言葉は何もなかったが、雄が望むことはすぐに分かった。
 お尻を高くし、頭をシーツに寝かせる。パックリと空いた穴に空気が入ってくる。
 再び熱い雄の塊に蹂躙される。体勢が変わると、響いてくる快楽の重みも違ったものになってくる。
「ひ、ひ、おん」
 ナガタはツバサの肩に手を置き、ズドンズドンと腰を打ち込んでくる。背中は弓のようにしなり、強烈な振動が伝わってくるたびに歓喜に震えた。
 動物のように犯され、ツバサはこの人には敵わないことを細胞単位で思い知った。
 ナガタはツバサの背中をぐっと抑えつけ、寝バックの状態からまた激しくピストンを開始する。微竿はシーツで抑えつけられ裏返しになり、その上では巨大な男幹が出たり入ったりを繰り返している。
 ツバサは近くにあった枕をぎゅっと握りしめ、もうまもなく始まるであろう命のやり取りに備えた。
 男女であればその気配は分からないが、同性同士だからこそ共有できる感覚がある。
 腰使いは荒くなり、獣じみた声と共に大量のザーメンが放たれた。自分では触れたことのない場所に征服の証がべっとりと塗りつけられる。 
 ツバサは女を抱く喜びは知らないが、もう知らなくて良いと思った。
 あれだけ激しく動いていたのに、ナガタは息を乱していなかった。そのままベッドから離れるとスマホを手に取った。
 パシャパシャとシャッター音が響く。フルマラソンを走ったあとみたいにヘトヘトのツバサは抗うことが出来なかった。
「SNSに上げるぞ。心配するな、顔は隠しておいてやる」
 狂乱の雌たちが踊るTLに自分が並ぶ。想像するだけで顔がニヤつく。
 ツバサはベッドの上を這うように移動し、自分のスマホでSNSを立ち上げた。
 変わり種の男の娘。妊娠の心配はないからいくらでも中出しできる。そんな文章と共に尻穴から精子を漏らす自分の写真がアップされていた。
 ツバサはそれをコメントを付けてリツイートした。

 今日、ご主人様に女にしていただきました。 
 嘘をついていてごめんなさい。これが本当の私です。 

模造JK

 ティーン雑誌の付録のポーチから人気現役女子高生モデルがプロデュースしたリップクリームを取り出す。唇に塗ると作り物の苺の香りがした。
 ソファに座る中年男。スラックスの上にはでっぷりとした腹が乗っかり、生え際はかなり後ろに後退していた。
 名前はアジマ。会うのは今日が初めてだ。
「お待たせ」
「うわぁ、カワイイよ」
 このラブホテルに入った瞬間から自分は男ではなく、女子高生のリカになる。年齢は17歳、帰宅部、得意な教科は英語、彼氏はいない。そして、今日は放課後のお小遣い稼ぎでオジサンとパパ活。
 ウィッグは本物っぽさを出すためにカットして毛量を減らしてある。化粧は女子高生Youtuberの「学校でバレないモテメイクのやり方」を参考にした。
 寒くはないがスクールカーディガンを着ている。ゆったりとしたカーディガンは体の線を多少は誤魔化してくれる。
 リボンとスカートは同じチェック柄、うさぎマークの刺繍が施された黒いハイソックスとスクールカバン。すべてフリマアプリで揃えた。みな「本物」が使っていたアイテムである。
 ベッドに座り手招きをした。カーディガンの袖で手を隠し、萌え袖をしながらやるのがポイントだ。
 アジマが隣に腰掛けるとマットレスが大きく沈んだ。
「オジサン、チューしようよ」
 小悪魔JK。そんな言葉が頭の中で光った。
 普段ならば男とキスなんて考えられない。でも、今は女の子だから出来る。
 赤黒い舌が口の中を貪ってくる。中年特有の体臭にむせ返りそうになる。
 唇を合わせたままリカはアジマのベルトを引き抜き、そのイチモツをズボンの上からゆっくりと持ち上げる。冴えない風貌とは真逆の立派なサイズであった。
「すごい、大きいね」
 息を吹きかけるように耳元で囁いた。我慢できなくなったアジマが押し倒してくる。
 股間を握った力を少しだけ強くすると動きはピタリと止まった。
「慌てないで。舐めてあげる」
 パンツを脱がすとバネじかけのように肉棒が飛び出した。五十手前と言っていたのに下半身はずいぶんと若い。
 毛が密集する玉袋に舌を這わせると塩っぱさと苦味がツンと鼻先まで抜けていった。ゆっくりと顔を上げていき、裏筋に到着する。舌で突きながら反応を確かめるために上目遣いをする。
 アジマはあぁと気持ちよさそうに息を漏らした。
 亀頭をパクリと咥え込み、レロレロと舐め回す。放課後のイケない遊びの中で覚えたフェラチオのテクニック。教室の友達たちは自分がこんなことをしているなんて知らないだろう。
 たっぷりと味わうと攻守逆転。リカはベッドに寝っ転がる。
 アジマはリカの白い太ももに鼻をつけると危ないクスリでもやるみたいに左右に顔を動かしながら思いっきり息を吸い込んだ。チェックのミニスカートと黒ソックスの間を禿げた頭が行ったり来たりしている。
 本物が使っている服や小物を揃えたり、細かいデティールを詰めるよりも、こうやって肉体を堪能してもらっているときが一番女子高生になれた気がする。
 スカートが捲られると薄いピンク色のパンティーが歪に盛り上がっていた。本物と自分を絶対的に分け隔てる膨らみであり、同時にアジマの欲望を刺激する膨らみでもある。
 一気に襲いかからずにアジマは獲物と距離を測る肉食動物のようにリカの股間をじっと見ている。
「こんなに大きくして、いやらしいね、いやらしいね」
 人差し指でぐぐっと押されると、甘いさざ波が流れる。
「大きなクリトリスだ」
 そういまの自分に付いているのは男性器なんかじゃない。
 アジマはスカートの中に潜り込んでパンティー越しに咥えだした。言うなればこれはクンニリングス。
 カーディガンの中にアジマの手が入り込み、ブラジャーを刷り上げる。ちょうど万歳をしたような形でリカの乳首を弄り出した。
「あぁ、だめぇん」
 半分演技、半分本気の声が出る。今日の相手はなかなかのテクニシャンであった。
 こみ上げてくる射精熱を冷まそうと、リカは太ももでアジマの顔を挟んだ。ところが、アジマのほうはさらに舌技を繰り出してきて、精が一気にこみ上げてくる。
「このままだといっちゃうよ」
「おじさんはいかせたいな」
 スカートから顔を出したアジマは意地悪い表情を浮かべていた。
「入れてほしいの」
「へえ、リカちゃんは会ったばかりのオジさんのオチンポを欲しがるんだね」
「ああん、イジワルしないで」
 まるでスケベオヤジと女子高生の会話じゃないか、リカの興奮は木をくべられた焚き火のようにますます強くなった。
「じゃあうつ伏せになってお尻を高く上げてみて」
 言われるがままに身体を動かすと、アジマはスカートとパンティーを脱がした。その二つは女子高生という記号を成立させる重要なパーツであったが、リカは躊躇することなく身を任せた。
 白いお尻から竿桃がぶら下がっている。アジマは犬みたいにリカの穴の周辺を嗅ぎ出した。ゾワゾワとした震えが背骨から伝わってくる。
「JKケツマン、いい匂いだよ」
 芝居じみた口調はむしろ興奮の着火剤であった。アジマが自分を女子高生だと思ってくれていることが何よりも嬉しさがあった。
「だめだよ、そんなところ汚いよ」
 蕎麦を啜るような音を立てて、アジマの舌が穴を丹念に調べ上げる。皮膚がふやけるほどの鼻息と唾液に足の力が入らなくる。
 アジマの顔が下がる。鼻が蟻の戸当りをぐいぐいと押して、口は玉を頬張った。睾丸がそのまま飲み込まれるんじゃなかと思うくらいに強く吸い上げられ、下腹の辺りに鈍痛が響いた。
 一転して飴のようにコロコロと舌の上で転がす。アジマは乱暴なだけではなく、加減も心得ていた。
「おいしいよ、リカちゃん」
 アジマはリカの腿の間に顔を寝かせ、お尻を掴むと、ぶら下がった竿桃を哺乳瓶のようにチュパチュパとやりだした。
「あぁ、いい、きもちいい」
「自分ばかり気持ちよくなってイケない娘だ」
 いつの間にか少し汗ばんでいた。
 アジマは立ち上がると、リカの穴に照準を合わせる。すぐには挿れずに先端で菊門の感触を楽しんでいた。
「挿れるよ」
 短い言葉と共に男の先端が身体の中へと入っていく。憧れている彼女たちと自分はいま同じことをしている。
 いまだけは年齢と性別は歪んでもいい。
 アジマは穴が棒に馴染むのをしっかりと待っていた。その間、お尻を撫で回し、時々手の甲で竿桃にイタズラをした。
「そろそろ動くよ」
 腰使いは激しいわけではないが、感じるポイントを的確に突いてきた。本当の女子高生にないスイッチをゴリゴリと凹ませられることで、女子高生になりきることができる。
 明日の現国の課題やサッカー部の気になるあの人や隣のクラスのあの娘が妊娠したとかそんな日常を吹き飛ばすオジサンのおちんぽ。中をかき回され、脳がぐらぐらと揺れ狂う。
 願望は肉棒によってどんどん生々しくなっていく。
 体勢を変えて、正常位で見つめ合いながら、繋がる。アジマの顔は真っ赤になって、歯を食いしばりながら腰を打ち付けてくる。そして、その目には女子高生の自分が映っている。
「イクよ、イクよ!」
 ピストンが加速していく。桃竿が激しく上下に揺れる。
「オジサンのザーメン、リカのオマンコにたくさんちょうだいぃ」
 はしたない言葉は相手ではなく自分に向かって投げかけていた。こんなことを言う女子高生はなんてイヤラシイのだろう。
「うぉぉぉ」
 リカの体内でアジマの肉棒が弾けた。粘っこい精子が直腸を駆け抜けていく。
 アジマは息を切らしながらベッドに倒れ込んだ。
 アフターピルを飲まないと、リカはボーッとする頭で天井を見つめながらそんなことを思った。

俊足雌化

 スタジアムは静かな緊張感に包まれていた。
 観客の視線はトラックに立つ男たちに注がれている。百メートル走の人類最速が今日決まろうとしている。
 0.1秒でも早く走るため身体にフィットするように作られたレーシングウェア。極限まで軽さを追求したスパイク。そして、走ることに特化した強靭な肉体。
 各国で一番早い男たちが横一列に並んでいる。
 アナウンスがカナタの名前を呼んだ。彼は手を上げた。遠い海の向こうで自分を見ている国民の期待に答えるように。
 クラッチングスタートの姿勢に入る。地面のザラついた感触が指に伝わってくる。足の筋肉を一つ一つ確かめるように伸ばし、スターティングブロックにスパイクを乗せる。
 この瞬間、カナタは人間じゃなくなる。発射を待つロケットだ。
 スタートの合図に全神経を集中させる。遅くても駄目、早くても駄目。何年ものトレーニングがこの一瞬に掛かってくる。
 速い人間が強い。そんなシンプルな短距離走がカナタは好きであった。幼い頃から陸上を始め、いま世界大会の舞台に立っている。
 セット。スタジアムにアナウンスが響く。
 お尻を高く上げる。スタートの合図が鳴った。
 ブロックを蹴った。腿の筋肉が震える。
 トラックを一歩踏むごとにぐんぐんと加速していく。
 わずか十秒のレース。なのに永遠に走っているような錯覚があった。全身の血が駆け巡り、電流が神経を駆け抜ける。もっと、もっと早く。
 ゴールラインを踏んだとき、大歓声に包まれた。
 


 腹の底で太鼓が鳴った。黒い巨砲がS字結腸を軽々と越えた。
 スルスルと引き戻り、またズドンと腰を打ち付けられる。口から臓器が飛び出るんじゃないかという恐怖で呼吸することすらままならない。
 男はケタケタと笑った。
 カナタは奥歯をぐっと噛み締めた。
 涙、よだれ、カウパー液、ローション、様々な汁がベッドの上で染みを作っている。まだベチョベチョとしたものがあれば、乾ききったものもある。
 戦争が始まった。政府はあっという間に降伏し、国が占領された。訳のわからない法律が出来て、いま自分はこの慰安所にいる。
 ベッド以外はなにもない狭い部屋。ここで兵士たちの慰み者となっていた。
 男はイチモツを引き抜いて、ぽっかりと空いたカナタの穴をニヤニヤと見ていた。早口で喋っているがすでに何回も男たちの相手をしてクタクタのカナタは聞き取ることが出来なかった。
 男は苛ついたのかカナタのポニーテールを引っ張り上げた。腰が弓なりになって、鋭い痛みが走る。そのまま頬を叩かれ床に打ち捨てられた。
 いまのカナタに短距離選手であった頃の面影はない。特殊な薬を打たれ、その肉体から男性的な要素は消えていった。五分刈りだった髪は長く伸びて後ろで結んでいる。
 全身を覆っていた鎧のような筋肉は柔らかな脂肪となった。そして手術によって巨大な胸が付けられ走るどころか歩くたびにユサユサと揺れてしまう。
 短距離どころかまとに運動すらできそうにない。
 男が出ていくと、休む間もなく別の男が入ってきた。今度は三人。他の兵士たちとは雰囲気が違う。どうやら民間人のようだ。
 カナタは外国人の顔の区別があまりつかなかったが、見覚えがあった。世界大会で競い合った選手たちだ。
 向こうはここにカナタがいると分かって来ているのだろう。嫌らしい笑みを浮かべてこちらを見ている。
 男たちはすぐに襲いかからずに何やら話し込んでいる。
 一人の男が耳元で囁いた。
「久しぶりだな。いまからゲームをするから付き合っておくれよ」
 渡されたのは女子陸上のレーシングウェアだった。白のスポーツブラジャーと赤のブルマである。
「これを着ろ。俺たちの前でオナニーをするんだ」
 ここにくる男たちはプレイと称して女装をさせる。たいていは制服やセクシーなランジェリーだ。こういうタイプは初めてであった。
 現役時代の記憶が不意に蘇る。女子選手を性的に見る人間がいることは知っていた。彼女たちがどれだけ過酷な練習をしているのか知っているだけに、カナタはそういう男たちを軽蔑していた。
 肉体が女に近付こうとも、どれだけ男に抱かれようとも、心の中にはアスリートとしてのプライドが残っていた。これを着てしまえば、自分で自分の陸上人生を汚すことになる。 
 しかし、ここに来る客の命令を拒否することはできない。小便だって美味しそうに飲み干さなければいけないのだ。
 ウェアは驚くほど身体にフィットした。スポーツブラジャーははち切れんばかりに膨らみ、その肉を際立たせた。縮み上がった男性器を後ろにしまい込むことでブルマはすっきりとした股間を描いた。
 肉体の雌化っぷりがくっきりと浮かび上がっていくるとともに、かつての陸上選手としての人生が蘇ってくる。女子選手の格好とはいえ、走ることへの乾きが疼くのだ。
 ところが、目の前には暗い部屋で男たちに囲まれているという現実があった。
 クスリのせいで勃起しなくなって随分と経つ。オナニーといわれてもどうしたらいいかわからない。
「9秒30以内射精しろ」
 その数字はあの大会でカナタが出した記録であった。世界新記録であり、人種の壁を越えたと国中大喜びであった。敗戦後、ドーピングの疑いを掛けられ、記録は抹消。もちろんドーピングはしていなかった。
「出来なかったから切り落としてやる」
 男が手に持っているのはナイフだった。いまの社会ではここで自分が殺されても彼らは罪に問われない。
「ほら準備しろ」
 ブルマの上から擦ると甘い感覚がわずかに広がる。いつも男たちに抱かれているのが豪雨だとしたら、これは水の一滴である。
「勃起するまで待ってやる」
 なにか興奮できるものを探さないといけない。最初に頭に浮かんだのは男たちの下半身であった。慌てて振り払う。こんな現状でも、いやこんな現状だからこそ自分が男である意識は崩してはいけない。
 この部屋にある女性的なアイテムを探すしかない。それは身につけているこのウェアであった。機能的であるがゆえに際立つ女性性とそれがフィットしてしまう現在の自分で興奮しなければいけない。
「勃起しないな。もう待ってられないスタートだ」
 冷徹に告げられた声。ただ為す術もなく時間は過ぎていく。小指ほどの性器は扱くというよりは摘むことしかできなかった。そしてその刺激は穴を疼かせた。
 挿れられる立場のセックスが骨の髄まで染み込んでいる。空いている手は無意識に胸を揉んでいた。射精するには感じられるところは触らないといけない。
 乳首の気持ちよさは下半身よりも早く強く、思わず甘い声が出てしまう。
 早く、早くと思うほどに射精が遠のいていく。あの百メートルではゴールは動かなかったのに、いまはもうたどり着ける気がしない。
「時間だ」
 カナタの眼の前にナイフが突きつけられる。恐怖のあまり息ができなくなる。
 残された唯一の男の証拠。惨めったらしくぶら下がり、排泄以外は何の意味もない器官。それでも切り取られたくはない。
 カナタは土下座をした。もうなりふり構っていられない、スター選手としてのプライドも、男としての挟持もかなぐり捨てて、懇願しなければ助からない。
「どうした怖いか?」
「お許しください。どうか、どうかそのままにしておいてください。代わりにどんなことでもします。おちんぽをなめますし、ファックもしてください」
 男たちが一斉に笑った。
「俺たちにナニを切り落とすなんてサイコな趣味はないよ。これはジョークさ」
 男はナイフをポケットにしまった。
「それに男とファックするつもりはないんだ。こんなところ来るのは下級兵士くらいだからな。今日は一杯やる前にお前の落ちっぷりを見に来たんだ。そのウェアはプレゼントしてやるよ」
 といって部屋から出ていった。単なる余興のためにカナタは血が凍るような恐怖を味わったのだ。
 ただ呆然としながら扉を見つめる。
 壁の向こうからは同じ元男たちの喘ぎ声が聞こえていた。

再会

 冷たい夜風が火照った頬を撫でた。
 携帯電話に妻からのメッセージが入っていた。「同窓会終わった?」
「二次会行くよ。今日は朝までコースみたいだ」と返事をした。すぐに「了解」と笑顔のマークが送られてくる。
「ねえ横歩いて」
 酔っていて繁華街の喧騒が遠くに感じるのに、ヤッコの声だけはハッキリと聞こえていた。
「さっきからナンパが凄いんだよ」
「ああ、そうか」
 茶色のコートから黒いストッキングが伸びて赤いヒール。行き交う男たちの視線が無遠慮に注がれている。
「みんな変わったよね。谷口くんなんかお腹出ちゃって。学生のときはあんなカッコよかったのに」
 今日は高校の同窓会。俺とヤッコは二次会には行かずに二人こうして歩いている。
 酒や煙草の匂いに混じって、ヤッコの香水が俺の鼻を擽る。
「山崎先生、老けたよね。まぁ十年は経っているから当然だけど」
「そうだな」 
「タッチンは全然変わってないね。なんだか安心した」
「お前は」
 変わったよなという言葉を飲み込んだ。
「結婚したのは意外だったけど」
「まあな」
 二十代後半になれば結婚なんて珍しくもないことだ。
 でも、たぶんそういうことじゃないだろう。
「高校のときさー、タッチンは私のノートをよく写してたよね」
「そんなことあったな」
「いつか借りを返すとか言ってたのに、結局何もしないまま卒業したよね」
 横を走る車のライトが眩しくて、一瞬だけヤッコの姿が見えなくなる。次見えるときもしかしたらあのときのヤッコに戻ってるかもしれない。そんな馬鹿なことが頭をよぎる。
「今日は帰りたくないの」
 俺たちは男子校出身だった。

「はい、水」
 手渡されたミネラルウォーターを飲んでも、身体の熱は一向に冷めない。
 勢いのままホテルに入ってしまった。
「おまえ、酒強いよな」
「まあね」
 豆腐みたいに肌が白いからヤッコ。高校時代のあだ名だ。あのときはごく普通の男の子だった。女になりたいとかそんな素振りは一切見えなかった。
 コートを脱いだヤッコ。黒いニット・セーターは膨らみを描いている。本来であれば何の違和感もない光景のはずが、過去を知っているとおかしく思えてくる。
 同窓会では周りの連中がヤッコに群がって近づくことができなかった。そりゃそうだ。久しぶりに再会したら女になっていたら聞きたいことは山程あるだろう。
 いざこう近くで見ると、これでもかというほど女だ。茶色の長い髪、柔らかな白い肌、高い声。本当にあのヤッコなのだろうか。 
 俺たちはソファに並んで座った。どうしても聞きたいことがあった。
「あの……お前のそのアレって俺が原因だったりする?」
 高二の夏休み。俺の家に遊びに来たヤッコ。ゲームをしていたとき、その唇にキスをしてしまった。なんでそんなことをしたのか自分でもわからない。すぐに別の友達がやってきたのでウヤムヤに出来たが。
 同窓会でヤッコと再会したとき、頭によぎったのはこの記憶だった。
「え、なに言ってんの。わたし、昔からずっと自分は女の子だって思ってたんだよ」
「あぁ、そうか」
 少し安心した。俺はまたミネラルウォーターを一口含んだ。
「でも、そんな風には見えなかったな。普通に女の話とかもしてたじゃん」
「怖かったんだよ」
 ヤッコは俺の肩に寄りかかってきた。とても良い匂いがした。
「だからタッチンがキスしてくれたときは嬉しかった」
 上目遣いのヤッコ。顔がだんだんと近づいてくる。
「あのときの続きしよ」
「でも、俺は結婚してるんだ」
「おねがい今夜だけ」
 これは不倫になるのか。でも男同士だぞ。いや目の前のヤッコはどう見ても女だ。どうすればいいんだ。
 唇がふれあい、舌を絡め合う。一度始まれば、俺は止められなかった。身体をぎゅっと抱きしめる。柔らかな感触が手に伝わってくる。
 一晩だけ。妻に嘘のメッセージを送ったとき、もしかしたらこうなるって分かっていたのかもしれない。
 だが、このあとはどうする。初めて女を抱いたときみたいにその肉体をどう扱っていいか分からない。
 とりあえず上を脱がす。やや小ぶりな胸が出てくる。手に収まるサイズだ。女とは違い、乳首が小さく、乳輪がくっきりとしていた。
 何も言わずに手を置く。触り心地は女と同じで柔らかい。とにかくいつもの感じで揉んで見る。
「あ、ああん」
 切なそうに上げる声は女そのものだ。
 ヤッコはスカートを下ろし、ストッキングも脱いだ。股間が少し膨らんでいる。ああやっぱり自分は男とヤッているんだという現実を突きつけられた気がした。
 不思議と嫌悪感は湧いてこない。それでも一歩踏み出すには勇気が要る。
 俺はまたキスをして、胸を触り始めた。時々、下半身の膨らみが視界に入ってくる。
「ん、ん、ああぁ」
 何度も舌を重ね合わせた結果、ヤッコの顔は薄紅色に染まっている。目が訴えてくる。このまま好きにしてと。
 俺も男だという変な責任感に後押しされ、パンティーに手をかける。
 無毛のデルタゾーンの下に小指くらいの竿が生えている。赤ん坊の性器のようにも見えるが、玉がない。小さな茶色の土手になっている。
 ヤッコの覚悟を見たような気がした。こいつは俺なんかが理解できないような苦しみをずっと抱えてきたんだ。
 包茎だが匂いはない。
 女性のアソコを舐めるのは抵抗感があるけど、これならいけそうだ。 
 俺はひょいと口に含んだ。
 ヤッコはひゃあと声を上げて、弱々しい力で俺の頭を離そうととする。
 歯を立てずにフェラチオするのは意外と難しい。自分がされてきたことを思い返しながら、舐めたり、吸い上げたりしてやる。
 頭に置かれていた手はだんだんと下がっていき、いつの間にか俺の手を重なっていた。
 その感触がまた記憶を呼び起こした。
 あのキスのとき、ヤッコは俺の手を確かに握っていた。
 たぶんこいつが心の奥底に隠していた女の部分を無意識に感じ取っていたのかもしれない。
「ねえ、交代」
 ズボンを脱がされる。すでに俺の下半身は半立になっていた。もう男だとか女だとかは関係ない。
 ヤッコは何のためらいもなく俺の竿を握り、優しく扱いてくれる。唾を垂らし、緩急をつけながら、俺の反応を楽しんでいるようだ。
 亀頭を舌先で突かれ、そのままパクリを咥えられる。口内の温かさに蕩けそうになる。
 女のフェラチオとは何かが違った。男だからと言われればそれまでなのだが、確実なポイントを責めてくるし、なんというか愛があった。
「うぅ」 
 少しでも気を抜くと出そうになる。体位を変えようかと思ったが、次は挿入すべきなのだろうか。
「ちょっとタンマ……あの挿れたほうが良い?」
「お尻を使うには色々と準備がいるから、今日は無理かも」
 俺の竿を握ったまま優しく微笑んでくるヤッコ。これは少し押せばできるかもしれない。でも、傷つけたくない。
「そ、そうか。いや大丈夫、気にしないで」
「でも、その代り、こういうことしよう」
 ヤッコは俺に抱きつき、下半身を重ね合わせてきた。
 もうすでに完全に勃起したイチモツにヤッコの柔らかな先端が擦り付けられる。
「兜合わせっていうんだよ」
 男同士でしか出来ない行為。背徳感で頭がクラクラしそうになる。
 ヤッコはキスをしてきた。俺はそれに応える。上も下も、受け止めるしかない。
「い、イク」
 いつの間にか俺もヤッコを強く抱きしめていた。下半身の熱が一つに集中していき、外へと放たれる。
 精子が互いの身体に付着した。初めての感覚だった。挿れるわけでもなく、扱くわけでもなく、果ててしまった。
 ベッドの上に寝っ転がる。精子の濃い匂いが漂っていた。
 ヤッコがすり寄ってくる。俺はやさしく抱き寄せた。
「来週、手術するの。性別適合手術ってヤツ」
「ええと、オチンチンを切るってことか?」
「正確には違うけど、説明するのがめんどくさいからそういうことにしておいて」
「成功を祈ってるよ」
「これで戸籍も変えられるし、正真正銘の女だよ」
 そう呟く横顔はすでにどう見ても女だった。
「だからタッチンとこういうことができるのはこれが最初で最後。だって奥さんに悪いでしょう」
「う、うん。まぁ、そうだな」
 俺はどう答えていいか分からなかった。一晩限りというのが惜しいと思うほどに俺とヤッコの相性は良かったのだ。
 いつの間にかヤッコは寝ていた。おとぎ話に出てくるお姫さまみたいに可愛くて愛らしいい寝顔だ。
 もしヤッコが女性に生まれていたら、きっと俺は結婚していたはずだ。そんな妄想が頭の中に広がりながら、俺は眠りに落ちていった。

 翌朝。スッキリと目が覚めた。二日酔いにはならなかったみたいだ。
 そうだヤッコと思い横を見ると、すでにその姿はなかった。部屋を探してもどこにもいない。
 唯一残されたのはテーブルに置き手紙。「わたしは女としての新しい人生を生きてきます。もう会うことはないでしょう。ありがとう」と短く書かれていた。
 その字体は小さくて丸かった。そういえば高校のときヤッコのノートを見たとき「女みたいな字だな」とからかったことがある。あいつはそれをどんな思いで受け止めたのか。
 太陽の光が窓から差し込んでいる。彼女が幸せでありますようにと空に祈ってみた。