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そして雌になる 前編

足が開かれると、天井を向いたペニクリが現れた。
それは石山が下から突き上げるたび大きく上下する。
揺れる視界。ベッドの端に座る桜はこちらを見て微笑んでいる。
彼女もゆうきと同様に全裸だった。
膨らんだ乳房から滑らかな曲線を描き柔らかな尻へと到達する身体。
「おい、自分で扱いてみろ」
石山はゆっくりとしたストロークで凶器的な男根を深く沈めた状態で止まった。
「は、はい」
いつもは石山が尻を犯しながらペニクリを扱く。
しかし、今日は自分自身で扱かなければいけない。それも桜の見ている前で。
ペニクリを手で軽く擦ると射精のごとく淫らな蜜が溢れ出た。
ぬるぬるとした感触が慰めを加速させていく。
それまでほとんど刺激が与えられなかったせいか一気に絶頂まで辿り着きそうになった。
「やめろ!」
石山が腕を掴んだ。
もどかしさが全身を駆け巡る。頭はすでにイク状態に入っていた。
「苦しそうだね。ゆうきちゃん」
桜が人差し指でペニクリを撫でた。指一本とは思えないほどの快楽が走り抜ける。
「ああ」
喘ぎ声が唇から漏れた。
突き上げが再び始まる。ペニクリへの意識が一気に体の裏へと引き戻される。
背面騎乗位で露出している接合部を桜はじっと眺めた。
改めて観察されることで、女性の目の前で男の人に犯されている変態的な自分を
まざまざと突きつけられている気がした。
石山の動きが止まった。さきほどと同じく体の奥底に肉望が留まっている状態になった。
「また扱け」
命令された通りに手を動かし始めた。再び意識が体の前方へ集まる。
すぐさま絶頂に辿り着きそうになるが、また石山の手がそれを阻んだ。
腕が痛みを感じるほどに強く握られる。
ゆうきは振り返って、石山を見た。
「お前がイクかどうかは俺が決めるんだ」
「い、イカせてください」
「まだ2回目だろう。こんなもんじゃ済まないぞ」
2回目。その言葉に急に視界が遠のいた気がした。
(こんなのが続くなんて…)
「ねえ、石山さん。ゆうきちゃんのクリトリス、あとひと擦りでイッちゃうんじゃない?」
すでに破裂しそうなペニクリは桜の言うとおり
ごく僅かな刺激で絶頂を迎える状態になっていた。
ゆうきは気まぐれに桜が自分のモノを触ってくれと願った。
あの細い指が当たっただけでもイクことができると思うほどに飢えていた。
「桜、絶対に触るなよ」
石山の言葉が僅かな希望を打ち砕く。
繰り返されてきた突き上げが再開される。
快楽のうねりがまた後ろへと動いた。
頭の中が絶頂への渇望で埋め尽くされていく。
快楽は波のように揺れて、次第にその勢いを増していった。
その幅が最大に近づこうとしたときに石山の動きが止まった。
「扱け」
あれほど願っていた射精欲が嘘みたいに消えていることに気づいた。
ゆうきは無意識に腰を動かしながら、自分のペニクリを擦り始めた。
「おっと、尻は動かすな」
石山が腰を強く掴んだ。
積み重なったもどかしさを追い払うようにペニクリをしごき出す。
後ろへの意識がまた前のほうにゆっくりと移っていく。
壊れた蛇口のように蜜がどんどんと溢れ出る。
登りだした快感は再び石山によって止められた。
「ああん、な、なんで」
あとほんのすこしでイクところを察知しかのように自慰を止めた。
「お前がイキそうになるとケツ穴で俺のチンポを締め付けるからな」
自分の性がいまこの人に完全に掌握されているという現実が目の前に突きつけられた。
こんな淫靡な地獄は一体いつまで続くのだろうか。
そこから何度も扱いては止められを繰り返させられた。
快楽が振り子のように前後に動き、泡のようにどんどんと膨らんでいく。
「うふふ、この焦らしがゆうきちゃんを雌に変えていくんだよ」
桜の言葉すら耳に入らないほどにゆうきは悶えていた。
最初は漏れ出るほどの喘ぎ声だったが、
いまではほとんど叫びに近いヨガり声を上げている。
石山は腰の位置を変えて、ゆうきの前立腺を嬲るようなピストンを始めた。
「ああ、だめだめ、あああん、や、ああぁ」
快楽のうねりはゆうきの中で完全なる飽和状態となった。
そのとき前への刺激は一切なしに、後ろだけの刺激で絶頂を迎えた。
意思とはまったく無関係に石山の突き上げによって
ペニクリから白いミルクがボタボタとこぼれだした。
支えていた腕から力が抜けて、そのまま石山の肉体の上に身体を預ける。
「トコロテンね。これでゆうきちゃんも一人前の女になれたね」
桜はシーツの精液を指ですくい取ると、ゆうきの顔の前に付きだした。
呆然とした頭の中で無意識にそれを口に咥えた。
「よし、じゃあ赤飯を作らないとな」
「まさか。生理じゃあるまいし」
激しいピストンをしていたのに石山はまったく疲れた様子を見せていなかった。
むしろまだまだこれかといった具合に男根は怒張したままであった。
「はぁ、はぁ」
ゆうきは息を切らしながら、天井を眺めることしかできなかった。
「じゃあ、次は私の番ね」
男根がゆっくりと抜かれていく。さきほどまでゆうきがいた位置に桜がついた。
「それにしてもやっぱり素質があったね。3ヶ月でトコロテンまでイクなんて凄いよ。
お化粧も完璧だし、もうすっかり女の子だね」
ゆうきは桜の言葉に反応できないほどに消耗しきっていた。
(3ヶ月。まだそれだけしか経ってないなんて…)
ついこの間まで自分は男であり、夫であり、そして父であった。
いたって普通の人間だと思っていたのに、なにがどう狂って
こんな異常な状況に陥ってしまったのか。
隣から桜の官能的な声が聞こえ始めた。
(さっきまで自分もあんな風になっていたのか)
彼の奥底で淫欲の火種が再び付き始めた。



ザラついた紙の資料を指でなぞって行くと、
細かい粒子が指紋の襞にこびり付く感触がして、
風間ゆうきは親指と人差し指を擦り合わせた。
肩のコリを感じて顔を上げると、見慣れた風景が視界に入ってくる。
並べられた机、乱雑に置かれたファイルや紙の束。
パソコンに何かを打ち込む同僚の後ろ姿、呑気に茶を飲む上司。
ゆっくりと息を吸い込むと、コーヒーや紙の匂いが鼻孔に飛び込んできた。
そして、建物全体から漂うカビ臭さのようなものが肺の中に落ちていった。
ここで流れる時間は他所とは違うんだろうな。
ゆうきは県庁に入ってからいつもそんな風に感じていた。
大学を卒業して、地方公務員となった。
色々な部署を渡り歩き、現在は県庁の財政課にいる。
ひたすらに数字とにらめっこする日々。やりがいを感じたことは一度もなかった。
そもそもこの仕事に就いたにこと自体、自分の意思ではなかった。
親が公務員であり、特にやりたいこともなかったので
試験を受けてみたら、採用されてしまったのだ。
「風間さん、お昼行きませんか?」
隣席の三上桜が声をかけてきた。時計を見ると、11時58分だった。
長い黒髪が印象的な彼女は先月に臨時の職員として財政課にやってきた。
目鼻立ちが整っており、薄い化粧なのに野暮ったい感じがない正統派の美人だった。
「よし、いくか」
何人かの同僚がゆうきを恨めしそうに睨んできた。

外に出ると涼やかな風が頬を撫でる。
「涼しくなりましたよね」
「ああ、もう10月だからね」
深呼吸して、カビ臭い空気と新鮮な空気を入れ替えた。
「おーい!待てよ!お二人さん!」
同期の1人である真島が声をかけてきた。
「風間!お前、嫁さんがいるのに桜さんを独り占めすんなよ!」
真島は建築課の人間だが、美人の桜のことを嗅ぎつけて、
なにかと一緒に行動しようとしてくる。
「昼飯を食いに行くだけだろ」
「俺も一緒に行く!」
真島は鼻息を荒くしながら言った。
「じゃあ、一緒に行きましょう。何食べますか?」
桜は笑顔で真島を受け入れた。
最も別に好意があるわけではなく、誰にでもそのように接しているだけであった。
「とりあえずいつものところへ行こうよ」
「嫁さんは弁当作ってくれないのか?前は愛妻弁当派だったじゃんか」
かつて真島とゆうきは同じ部署で働いていたことがあった。
「子どもに手が掛かるからね。しばらくは外食だよ」
「そういえばお子さんっていまお幾つでしたっけ?」
「来月で2歳だね」
「いいなー、俺も早く子ども欲しいよー。もう今年で30なんだぜ」
「女の子でしたよね。やっぱり風間さんに似てますか?」
「どうだろ。みんなはそう言うけど、自分じゃ分からないよ」
「風間さんってどっちかというと女顔だから、娘さんはきっと美人に成長しますよ」
女顔と言われて、胸の奥底にむず痒いものを感じた。
行きつけの定食屋は空いていた。
「じゃあ、俺はボリューム定食」
「私は日替わり定食。風間さんは?」
ボリューム定食はフライとハンバーグ、日替わり定食は焼き魚だった。
油物を食べる気はしなかったが、他に目ぼしいメニューもない。
「ええーと、ええと…」
焦ると余計に考えがまとまらなくなる。
「僕もボリューム定食で」
店員はオーダーを取り終えると、さっさと裏に引っ込んだ。
頼んだ後で別の定食が食べたくなったが、
いまさら変更するのも悪いので黙っていることにした。
「こないださー、お袋のやつが見合い進めてきたんだぜ。
いまどき流行らないよな」
「たしかにあんまり聞かないですね」
「でしょでしょ。まぁ、お袋も早く身を固めて欲しいってのもわかるけどさ。
それに息子が公務員ってことで周りが見合いを勧めてくるらしいんだよ」
「私の周りも人気ですよ」
「桜ちゃんはどうなの?公務員狙い?」
「そういうところでは結婚相手は見てませんよ」
そっかー、と真島は落胆したようにため息をついた。
「風間はいいよなー。落ち着いててさー」
「なんだよ」
「結婚して、子どもも出来て、男としてはもう一人前だろ」
「日替わり定食おまたせしました~」
店員が料理を運んできた。
ゆうきは果たして自分は男として一人前なんだろうかと思った。
傍目から見ればそうなのかもしれないが、実感はまったくない。
(このままでいいんだろうか)
毎日同じことを繰り返し、飽々するのもとっくに通り越してしまった。
いまの位置から死ぬまでが一直線で見える気がして、
その果てしなさに吐き気すら覚えるときがある。
みんなそんな気持ちを押し隠して日々を生きてるんだろうか。
笑ってしまうほどの青臭い自意識がまだゆうきの中には残っていた。
けど、もう家庭を持ってしまった。自分1人の身体ではないのだ。
「はい、ボリューム定食になります」
ゆうきの前に食べたくもないフライが置かれた。


「ぱぱ、おーあーえいー」
ゆうきは娘の華怜を抱き上げた。
重さが腕に掛かり、温かさを胸で感じる。
ついこの間までよちよち歩きだったのに、
いまでは1人で歩けるほどになった。
その成長スピードには驚かされる。
「おかえりなさい」
「ただいま」
妻の理恵は台所で夕食の支度をしていた。
「きょうねー、かえんねー、いっぱいおちごとしたのー
ぱぱもおちごとしたー?」
「ああ、したよ」
「あなた、華怜をお風呂に入れちゃって」
「わかった」


ベッドの上で天井をじっと見ていた。
横の理恵と華怜は寝息を立てている。
ここ一年ほど寝付きが悪くなっていた。
眠ろうと思っても、1〜2時間は目が冴えている。
睡眠薬を飲めば良いのだが、どうにも身体に合わず
そのままにしている。
不眠の理由は分かっている。
欲求が貯まっているのだ。
理恵は出産してから、夜のことなどまったく頭にない。
日々、育児に追われている毎日。
それにゆうき自身も理恵を女として見れなくなっていた。
かといって、風俗に行っても、
その場しのぎの快楽があるだけで、余計に虚しくなるだけだった。
(考えすぎだ)
雑念を頭から振り払い、目をつむろうとしたとき、
桜の顔が浮かんできた。
艷やかな黒髪、女を強調する身体の曲線。
近づくと鼻孔を擽る香り、僅かに触れたときの柔らかさ。
(不倫…そんな馬鹿なこと)
公務員である自分が不貞行為をしたことがバレたら、
一体どんなことが起こるだろうか。
ルールや常識というものに人一倍敏感なゆうきは
馬鹿な考えを急いで頭から追い払った。
しかし、結局悶々としてしまい眠りからはますます遠ざかった。


ある日、ゆうきは各課から送られてくる予算関係の書類をまとめるため残業をしていた。
周りは全員帰っており、キーボードを叩く音だけが響いていた。
「風間さん」
「わっっ!!」
パソコンの画面に夢中になっていたので、声をかけられて驚いた。
「ごめんなさい。そんなに驚くなんて」
「なんだ、桜さんか」
桜は手にビニール袋を携えていた。
「休憩しませんか?甘いもの買ってきました」
お茶の用意をして、隣に座った。
「たまたま外を通りかかったら電気が付いてたから、
風間さんまだお仕事されてるのかなと思って」
ビニールから出したのは、シュークリームだった。
「これ近所ではけっこう有名なシュークリームなんですよ。
家で1人で食べるのがなんか寂しくて…」
恥ずかしそうに微笑む桜の横顔に鼓動が一つ高くなった。
(二人っきりになるのは初めてなのかもしれない)
「どうぞ、食べてください」
「ああ、いただくよ」
一口齧ると程よい甘さが舌の上に広がって、満たされていく感じがした。
「うふふ、風間さんって甘いものお好きなんですか?」
「え、いや、疲れていたからね」
「まるで女の子みたいにおいしそうに食べますよね」
何気なく言った言葉がゆうきを捉えた。
「そうかな…別に女の子とかそんなことは…」
違和感がそのまま口から出てしまったが、
上手く処理することが出来ないので
歯切れ悪い言葉になってしまった。
「右側」
「えっ?」
桜は人差し指でゆうきの顔の右側をなぞった。
「風間さんの感情は右側に出やすい。
動揺すると右の口角が僅かに震えるの」
指がその辺りをやさしく押した。
「右が本質。左が理性ね。
風間さんは理性が強い人間だから、無意識のうちに左に重心を置いてませんか?
立っているときや座っているときとか」
日常の動作が頭の中に起き上がってくる。
確かに言われる通りなのかもしれない。
同時になぜ桜はこんなことを言うのだろうかと思った。
一喝して仕事に戻るべきではないのか。
「だいぶ葛藤してるわね。面白いくらいに反応が出る」
「な、何を言ってるんだ」
「体温が上昇してるし、瞬きも増えてる。呼吸もだいぶ乱れてるわね」
口調に冷たさが差し始めてきた。
「風間さんの持ち物…ネクタイ、ハンカチ、スマホ。ほとんどグレーかネイビーの色よね」
「それがどうした。男なら普通じゃないか」
口の中が異様に乾いていることに気づいた。
「違う」
その一言がまるで銃弾のように胸に深く入りこむ。
「あなたが求めているものがあるのよ。
それを知っているのに気づいてない振りをしているだけ」
人差し指がゆっくりと離れていった。


寝室で華怜の顔を見ても、落ち着きは取り戻せなかった。
桜の言葉がずっと頭の中で反芻されている。
いつもの彼女ではなかった。
得体のしれない生き物に見えた。
普段の姿は嘘で、あれが本当の姿なのだろうか。
「おかえり。遅かったね」
「あ、ああ。ごめんね。起こしちゃった?」
「大丈夫。さっきまで華怜が夜泣きしてたから」
ゆうきに顔を向けず喋る理恵。
「そっか。大変だね」
「やめてよ。その言い方」
後頭部がじっとこちらを見ている。
染めた茶色の髪と自毛の黒色が混じっていた。
「な、なんだよ」
「すごい他人みたい。華怜はあなたの娘でもあるのよ」
「ごめん」
「……すぐ謝るのやめて」
何も言い返せなかった。
他人みたい。
その言葉に胸が痛んだ。
彼女たちは大切な家族と思う一方で
実際にそう感じてしまうときがある。
ゆうきは黙ってベッドに入った。
また眠れない夜が始まった。


次の日、桜はいつも通りに出勤をしていた。
昨日あったことなどまるで気にもせず隣に座っている。
こうなるとむしろあれは夢だったんじゃないかと思えてしまう。
「おはようございます」
「お、おはよう」
ぎこちなく挨拶を返す。昨日ことが頭を駆け巡っていく。
無意識に左側に重心を置いていることに気づき、
持ち物の暗い色がやたらと目につくようになる。
急に不安になってくる。
同じ場所なのに、何が変わったのか。
困惑しながらも、時間はいつも通りに過ぎていく。
朝礼が始まり、一日の業務が始まった。
「風間ー」
部屋の中央の席に座る課長がゆうきを呼んだ。
「なんでしょうか」
課長は小柄だが頭が人一倍大きく、ギョロリとした目つきが
宇宙人か何かを思わせる風貌をしていた。
「昨日作ってくれた資料なんだけどさ、
各課から反発が凄くてねー。根回しが足らなかったじゃないのー」
ゆうきたちの仕事は各課の予算を決めるために恨まれることが多い。
だが、資料作成は課長からの指示だ。
「……つまりはもう一度作り直しということですか?」
吐き出したい言葉を飲み込んだ。
公務員の仕事はいかに波風を立てないかが重要になる。
逆らわなければ自分の身は保証される。
「まぁ、そういうことになるね。悪いけど頼むよ」
席に戻って、誰にも気付かれないようにゆっくりと息を吐いた。

建物の屋上に出ると、曇り空が広がっていた。
冬が近づいている。冷たい風が吹き付けていた。
課長から言われた仕事にどうしても集中できなかった。
資料に並んだ数字や漢字がバラバラになっていく気がした。
そして、隣の桜をどうしても意識せずにはいられなかった。
自販機で買った缶コーヒーを流し込む。
甘ったるい味が舌に広がった。
(仕事を抜けだして、こんなところにいるなんて初めてだな)
若干の後ろめたさとドキドキ感があった。
そんなものを感じたのは初めてなのかもしれない。
「風間さん」
昨日と同じように後ろから声を掛けられた。
心臓が高鳴る。
「飛び降りる気?」
「…なにを馬鹿なことを」
ゆうきは振り返った。桜と目を合わせる。
黒くて大きな瞳の中に自分が映っている。
「そう?良いアイディアだと思うけど。
あなた時々死にたがっている目をしているもの」
強い風が吹いた。桜の黒髪が大きく舞い上がり、翼のように見えた。
「一体何のつもりなんだ。昨日も僕に変なことを言って」
「ああ、ごめんなさいね。あんなに動揺するなんて思わなかったから」
「動揺なんてしてない。いい加減なこと言うな」
「珍しく感情が表に出てるわね。さっきはぐっと我慢していたくせに」
「…べつに、そんなことは」
「昨日の言葉は本当のあなたを呼び覚ますための呪文のようなものよ」
桜は風で乱れた黒髪を手でゆっくりと直した。
「何を言ってるんだ。僕は僕だ」
「声が震えてる。落ち着いて。
あなたを目覚めさせてあげる」



百合の香りが漂っている。
真っ白なドレッサーの上には化粧品が綺麗に置かれていた。
黒を基調とした家具に囲まれた清潔な部屋だった。
お洒落というより、生活の匂いが一切しない。
大きな鏡の前には見慣れた自分の顔があった。
なぜここにいるのか。
慎重で臆病だと思っていたのに、こんな大胆な行動をするなんて。
部屋の扉を開くまでは思い切って逃げようかとも考えていた。
でも、そうはしなかった。
「奥さんにはなんて言ってきたんですか?」
黒のワンピースを着た桜が横に立っていた。
「仕事が入ったって嘘をついた」
胸が痛んだ。妻に嘘をついたのは初めてだった。
あの屋上で誘いを受けた。
日曜日。ゆうきは桜のマンションにいた。
「これから何をされるか分かりますか?」
「……化粧だろ」
「正解」
「女装させようっていうのかい。
女の格好することが本当の僕なのか」
冗談っぽく言うつもりが声には僅かに怒気が含まれていた。
「まぁまぁ、落ち着いて」
桜はいくつかの化粧品を並べて、鼻歌交じりに選び始めた。
時々、鏡の中にあるゆうきの顔と見比べて、色などを確認している。
「風間さんって男?」
「なにを言ってるんだ。どこからどう見ても男だろ」
「何を根拠にそんなこと言ってるんです?」
「生物学的な話だよ」
「その次元で話なら、性別や性指向にはかなりの多様性があるんですよ。
性転換する魚がいたり、同性愛の哺乳類がいたりするんです」
桜はコットンに化粧液を垂らし、ゆうきの顔全体に当て始めた。
「それは動物の種類によって変わってくるだろう。僕は人間の男だ」
「人間…うふふ人間」桜は微笑みながら繰り返し人間という言葉を呟いた。
ファンデーションが顔に塗られていく。
肌の色がゆっくりと変化していった。
「アリストテレスは人間は社会的な動物であるといいました。
私は人間って関係性の動物だと思うんですよ。
つまり、風間さんを夫として求める人がいれば
夫になる。父として求める人がいれば父になる…
あっ、アイメイクをするからしばらく目を瞑ってください」
ゆうきの視界はまっくらになった。筆や指の感触が一層強くなる。
「女として求める人がいれば女になる」
「そんなのは当人の人格を無視しているよ」
「動かないで。眉毛がズレちゃいますよ」
「……」
「あなたが思っている人格なんて偽りですよ。
あなただけじゃない。みんなそうなんです。
この社会を成立させるために与えられた役割を
盲目的に信じ込んでいるんです。
無意識に刷り込まれているからおかしいとも思わない。
でも、全員じゃない。それに矛盾に気づくマイノリティもいる」
唇に何かを塗られた。
そして、頭にウィッグが被せられた。
「目を開けてください」
鏡の前には見たことのない自分がいた。
女性の風間ゆうきだった。


不思議な感覚だった。
鏡の向こうにいる見知らぬ人物が、
こちらと同じように動く。
「思った通り。いや、思った以上ね」
男に施された女の化粧が官能的だった。
「た、確かに綺麗だ。もっと酷いのを想像してた。
我ながら驚くよ。もともと母親似の顔だからね。
けど、女の人は大変だね。毎日こんな化粧をしなくちゃいけないんだろ。
僕には無理だな…」
「何をそんなに怯えているの?」
鏡越しに見る桜から目を逸らした。
黒いワンピースが揺れたと思ったら、柔らかな肌色が現れた。
「な、なにをしてるんだ!」
ゆうきは驚いて立ち上がった。
桜は服を脱ぎ、全裸になっていた。
美しい曲線を描く女体が熱を持って目の前に浮かび上がる。
「早く服を着てくれ。僕はそんなつもりはない!」
視線を落とした。
ウィッグが顔に垂れてきて煩わしいが、正面を向くことができない。
桜はゆうきの手を握り、自らの膨らみへと導いた。
久しく感じていない女の質感だった。
「そうやって、なんでも理性で抑えつけようとする。
必死に言葉を探して、感情をコントロールしようとする」
握られた手はゆっくりと下がっていき、
下半身の茂みに到達しようとしていた。
指先に僅かな湿り気を感じた。
「風間さんも立ってますよ」
言われるまで自分の欲望が反応していることに気付かなかった。
桜は膝をつき、ゆうきのズボンを脱がした。
「こんなになって。私の身体に興奮したのかな?
それとも女みたいに化粧したから興奮してるの?」
最後の一言に頭が殴られたような気がした。
桜はゆっくりと扱き始める。
「だめだ、や、やめるんだ」
否定の言葉を並べても、ゆうきはそれ以上の拒否はしなかった。
あっという間に熱がこみ上げてくる。
「鏡を見て」
顔は女だが、首下は男の自分。
ちぐはぐな格好で下半身を責められている。
倒錯的な光景に何かが弾けた。
「あっ、あっ、だめ」
絶頂を迎える。連続的に発射された濃いザーメンが桜の手のひらにべとりと絡みつく。
「ずいぶん溜まってたみたいね」
ゆうきは力が抜けて、その場に座り込んだ。
「舐めてみる?」
桜は白濁の人差し指を差し出してきた。
特有の匂いがぷんと香った。
たまらず顔を背ける。
「あら、残念」
時間の経過と共に熱が引いていき、床に落ちた精液が目に入ってきた。
(…なんてことをしてしまった)
汚れることも気にせず、ズボンを履いた。
(急いでこの部屋から出て行かないと)
「そのまま外に出る気?」
ゆうきは自分がどういう格好をしているか思い出した。
「化粧した風間さんを見たら、奥さんと娘さんどう思うかしら?」
桜の言葉が一番触れてほしくないところに当たった。
「ここに座って。化粧を落としてあげるわ。」

「はい、これパパのご飯」
華怜はプラスチックのハンバーグを差し出した。
「もうすぐでめいんでぃっしゅができますから、
ちょっとまっていてください」
玩具の包丁を動かしながら、口でジュージューと音を出していた。
「ほら、パパ。ハンバーグ食べて。食べて」
「ああ」
つい数時間前までルージュが引かれた口で
ハンバーグを食べる真似をした。
桜は自分をどうしたいのか。
マンションから出たときにもう二度と関わらないと決めたが、
家に帰るとあの刺激を心のどこかで欲していることに気づく。
顔があれだけ綺麗になったのなら、
服も揃えたらどうなるんだろうか。
考えたこともなかった。
自分の女としての可能性。
「ねぇー、パパー、パパー」
「あっ、ごめんごめん」
華怜の顔を見たとき、湧き上がった考えの
馬鹿さ加減に気づいた。
(一体何を考えているんだ僕は…)

「いってきます」
家を出ると朝の冷たい風が頬を撫でた。
(この格好じゃ寒いな)
駅に向かう途中、すれ違う人の何人かはコートを着ていた。
(確か持っていたコートはだいぶ古くなっていたんだよな)
新しく買い換えようと考えていた時、
前を歩く女性が着るベージュのコートが目に入った。
その部分だけが浮き上がっている気がした。
驚いて視線をズラすと、別の女性がいた。
グレーのスカートから黒色のストッキングが伸びている。
足先はハイヒールでカツカツと心地の良い足音を立てていた。
羨ましい。
そんな感情が一瞬だけ頭をよぎった。
(オカマにでもなるつもりか)
急いで振り払うが、女性が視界に入ってくると
その肉体ではなく、服や身につけているモノに注目してしまう。
そのうち看板や広告の女性にさえ、
これまでに感じたことのない気持ちを抱くようになった。
(こんな風に綺麗になりたい)

その日、桜は休みだった。
ゆうきは一安心した。
同時に空いた席が返って彼女の存在を印象付ける。
彼女は僕を一体どうするつもりなのか。
仕事にも集中出来ず、ただ時間が過ぎていくだけだった。
お昼になると、真島がやってきた。
「あれ、桜さんは?」
「今日休みだよ」
「なんだよー。せっかく一緒にランチしようと思ったのに」
悔しがる姿を横目にゆうきは思い切って聞いてみた。
「なぁ、真島。桜さんのことどう思う?」
「どう思うって、美人で性格が良くて、付き合いたいなーって思うけど。
あっ、これは本人には内緒だぞ」
「いや、なんていうか時々何を考えてるか分からないときはないか?」
「は?なに言ってんだよ」
「いや、もう良い」
他の人間に聞いても同じような反応が返ってくるに違いない。
自分しか彼女の本当の姿を知らないのだ。
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コメント

No title

うらやましいです。
理想的な人生。
だれかこんな風に強制的にメス化してくれないものか。

2016/03/15 (Tue) 17:09 | #qbIq4rIg | URL | Edit
No title

その2のリアルな感じがたまらない。。
どこにでもある日常からメスイキトコロテンまで何があった???

2016/03/24 (Thu) 13:33 | ファン #.1Yf4bn. | URL | Edit
No title

コメント、ありがとうございます。

ここからじっくりと堕ちていきますので
楽しみにしていてください〜

2016/03/24 (Thu) 14:01 | のぞみ@管理人 #- | URL | Edit

その3、桜の妖しい感じがたまりませんでした。
堕落を垣間見る囁き…漂う甘美な香りがドキドキします。

これからを想像すると興奮が止まりません……!

2016/03/26 (Sat) 16:43 | うぃんど #- | URL | Edit
No title

>>うぃんどさん

ありがとうございます。
男のプライドがだんだんと崩れていく様子を
お楽しみください(^^)

2016/03/26 (Sat) 17:24 | のぞみ@管理人 #- | URL | Edit
No title

リアルでしかも興奮させる文章がすごくいいです。
どこかで修行をされた方でしょうか?それとも才能?
応援してます。

2016/04/13 (Wed) 18:40 | ファン #- | URL | Edit
No title

ありがとうございます
修行、才能だなんて滅相もないです〜
ただ変態なだけです(*´∀`*)

これからも頑張ります!

2016/04/13 (Wed) 21:10 | のぞみ@管理人 #- | URL | Edit
No title

変なことを書いちゃってすいません。
ものすごく上手な文章なので読んでいてもすぐ世界に浸れます。

こんな物語が紡げるのぞみさんにあこがれます。

2016/04/14 (Thu) 22:53 | ファン #- | URL | Edit
No title

いえいえコメントは励みになります!

普段溜め込んでいる欲望を思いっきり発散しているだけですよ〜
自分がエロいと感じたものを文章にしている変態です^^;

2016/04/15 (Fri) 00:13 | のぞみ@管理人 #- | URL | Edit
No title

のぞみさんが変態でよかった・・・(最上級の敬意をこめて)

その8もすごく変態ですね。奥さんの存在が気になるところです。
もしかしてネトラレ要素もはいいてくるのかな?
だとしたらさらに楽しみです。

2016/04/23 (Sat) 15:59 | ファン #- | URL | Edit
No title

コメントありがとうございます。

実はもう最期まで書き上げています。
来週には最終回をアップする予定です。
よろしくお願いします!

2016/04/23 (Sat) 18:50 | のぞみ@管理人 #- | URL | Edit

のぞみさん、いつも楽しく興奮して読ませて貰っています。
そこで質問なんですが元々ノンケだった男が雌堕ちしてゲイというか男性しか受け付けなるという事は実際起こり得ると思いますか?
私も元々ノンケで相当雌堕ちしてるはずですが未だに女性に興奮する時があります。
なのでノンケだった男がバイになる事は出来てもゲイになるのは難しいのかな?と思ってしまいます。
のぞみさんはどう思いますか?
そもそも雌堕ちとは男性しか受け付けなくなる事を言うのでしょうか?

2016/04/24 (Sun) 11:37 | ココ #FT/S2lR. | URL | Edit
No title

ココさん、いつもありがとうございます!

>>そもそも雌堕ちとは男性しか受け付けなくなる事を言うのでしょうか?
雌堕ちは人によって意味合いが変わってくると思います。私にとっては「快楽に溺れる」ことです。なので、男性しか相手にできないというよりは、男性のほうがキモチイイから女性とのセックスに興味がなくなるといった感じでしょうか。


私は「ゲイになる」「バイになる」というよりは、心の奥底にある願望に気づくほうが大事だと思います。性的な考え方やフェチズムってなろうと思ってなるものじゃなくて、本来自分がすでに持っているものではないでしょうか。それが常識や思い込みに囚われて見えない状態から脱出するのが「雌堕ち」なのかもしれません。

なので、ココさんが女性に興奮するのなら、それはそのままで良いと思います。

2016/04/24 (Sun) 11:59 | のぞみ@管理人 #- | URL | Edit

なるほど、なんだかモヤモヤが取れました。ありがとうございます。
私は心の奥底にある願望に気付く事が出来たので既にもう雌堕ちしてるんでしょうね。
まだ男性経験がないから女性とのセックスと比べられないだけで1度経験すれば更に深い所まで堕ちていくかも知れませんね
とても楽しみだし興奮します(笑)

2016/04/24 (Sun) 12:32 | ココ #FT/S2lR. | URL | Edit

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